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第1話
夏がやってきた。笹野夏樹 にとっては、これまた嫌な季節になった。
何故なら、体育の授業がプールに切り替わってしまうからだ。
(帰りたい……)
プールバックを抱えながら、げっそりと廊下を歩く。
今は昼休み。五、六時間目にはプールの授業がある。そのために更衣室に向かっているのだが、授業のことを考えると気が重くてならなかった。
もともと運動は苦手だが、夏樹はプールに入るのも大嫌いである。小学生の時から、なんでこんな授業があるのかとずっと不満に思っていた。自慢じゃないが、夏樹は高校二年生になった今でも水の中で目を開けることができない。ゴーグルをつけたとしても、カナヅチだからちっとも楽しくない。
しかも……。
(あの変態教師とプールだなんて……)
高校二年生の授業を受け持っている、市川慶喜 。二十代後半の若者で、生徒から人気のある体育教師だ。見た目もハンサムで体格もよく、サバサバした言動から爽やか系のお兄さんだと思われているらしい。
「なっちゃん、いいよなー。市川センセに気に入られててさー」
……と、何も知らない友人に言われることがあるが、夏樹としては冷や汗モノだ。
市川から初めて補習授業を命じられたのは五月の半ば。跳び箱の実技試験で夏樹だけ跳べなかったからその補習に、ということだった。
だが、いざ補習を受けに体育館に行ってみたら「跳べるようにしてやるから」といかがわしいマッサージを受けさせられ、わけもわからないまま跳び箱の上で後ろを掘られてしまい……。
それがきっかけで、市川と付き合うことになったのだが、夏樹としてはいつバレてしまうか気が気ではなかった。同じ学校に通っている生徒と教師(しかも男同士)が付き合っているなんて周囲に知れたら、問題になるに決まっている。夏樹はともかく、市川は懲戒処分になるかもしれない。
けれど市川本人はあまり深刻に物事を考えていないようで、
「そりゃ困ったな~。じゃ、バレないようにまたうちに来る?」
……と、どこまでも脳天気である。
やれやれ……と更衣室のロッカーを開け、夏樹はプールバッグを放り込んだ。
あんな筋肉馬鹿の変態教師のために悩んでやるなんてもったいない。もし市川がクビになったら自業自得と笑ってやろう。
そう思いながらワイシャツのボタンを外すと、日に焼けていない白い肌が見えてきた。同時に胸の突起が視界に入ってきて、夏樹は反射的に目を反らした。
(あンのクソ教師……!)
昨日の夜も、市川の自宅でたっぷり可愛がられた。何度挑まれたか定かではないが、ところどころ記憶が途切れている部分もある。市川の極太性器を長時間後ろに咥えさせられていたのは明らかで、未だに後孔が腫れているような違和感も覚えた。
それだけなら(誰かに見せるわけでもないし)大目に見てやってもいいが、乳首がいやらしい色に変わっていることだけは看過できなかった。もともと肌が白いため、余計に色が目立ってしまう。こんな状態のものを大勢の前で晒すのはさすがに恥ずかしい。
「…………」
夏樹は黙ってワイシャツのボタンを閉めた。
そしてバン、とロッカーを閉め、制服のままプールサイドに向かった。
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