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第2話

「……というわけで、今日は平泳ぎの練習をするぞー」  プールサイドで市川が説明している。  ほどよく日に焼け、鍛え上げられた肉体を惜しげもなく披露している姿は、腐っても体育教師と評価するべきか。自分の身体と比べるとさすがに立派だなと思う。  だからといって、市川のようになりたいとは一ミリも思わないけれど。 (それにしても暑いな……)  プールサイドの脇にあるベンチで、夏樹は額の汗を拭った。  プールに入れる条件というのは、気温と水温を足して五〇度を超えることがひとつであるらしい(以前、市川がそんなことを言っていた)。今日は気温が三〇度を超える真夏日なので、湿気の多いプールサイドで見学しているとかなり暑かった。  一方、プールではしゃいでいるクラスメートたちはみんな快適そうだった。ちょっと羨ましい。 「よう、笹野。暑そうだな」  平泳ぎで二十五メートル泳がせている間に、市川が話しかけてきた。一応気を遣っているのか、みんながいる前では「笹野」と呼んでくれる。 「なんで見学してるんだよ? せっかくのプール日和なんだから入ればいいのに」 「……うるさいですね。ほっといてくださいよ」 「あれ、なんか機嫌悪いな。もしかして体調悪いとか? 昨日の夜は元気だったのにな」 「っ……!」  プチッとこめかみに青筋が立ち、夏樹は市川を睨みつけた。「あんたのせいだよ、バカ!」と怒鳴ってやりたかったけれど、さすがに授業中なのでグッとこらえる。 「……先生こそ、無駄話してないで授業に戻ったらどうですか。プールなんて特に、ちゃんと監督してないと危ないでしょ」 「まあな。でも見学者が熱中症にならないように見守るのも教師の役目だからさ」  かっこいいことを言っているが、市川の場合はそれを口実に夏樹とお喋りしたいだけだと思う。

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