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第3話
「というかお前、飲み物何も持参してきてないのか。見学者でもマイボトルくらい持ってくるもんだぞ?」
「……すみませんね。なんかムカついたんで、ペットボトル持ってくるの忘れました」
「そうなのか? ったく、しょうがないなあ……」
市川は、プールサイドに置いてあるクーラーボックスの中からキンキンに冷えたスポーツドリンクを取り出した。それをピトッと夏樹の頬に当て、爽やかな笑みを向けてくる。
「ほい。これやるから、ちゃんと水分補給しろよ?」
「あ……はあ、ありがとうございます……」
パキッ、とボトルのキャップを開け、一気に半分ほど流し込んだ。自分の中にみるみる水分が沁み込んでいくようで、夏樹は生き返るような心地を覚えた。やはりかなり喉が渇いていたようだ。
(変態教師だけど、たま~にいいことするんだよな……)
これで性癖が改善されれば、いい教師に見えるのに……と思った矢先、市川は不意にこんなことを言い出した。
「それからお前、今日の放課後プールで補習な」
「ええっ!? なんでですか!」
「なんでじゃないよ。健康なのに体育の授業を欠席するのはただのサボりだろ。苦手な教科だからってサボるのはよくないぞ」
「…………」
呆れて二の句が継げない。自宅に夏樹を連れ込んで足腰潰した挙げ句「明日は学校サボっちゃえ」とそそのかすこともあるくせに、どの口が言うのか。
「今日の補習をクリアすれば、今後のプールの授業は勘弁してやるからさ。みんなの前で水着姿になりたくないなら、ちゃんとここに来いよ? 待ってるからな」
「……。……わかりましたよ」
嫌だと言ったところで無理矢理連行されるに決まっている。この変態教師のことだ、どうせまたロクでもないことを企んでいるのだろう。
(……まあ、だいたい予想はつくけどね)
半分げっそりしながら、夏樹は時間が過ぎるのを待った。
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