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其の壱

この瞳が あなたの光になれるのなら ずっと そう思っていた けれど アナタがソレを望まぬなら この瞳を閉じよう その頬の傷痕を見るなと云うのなら それが あなたの言付けなら 美しい姿のままのアナタを 瞼の裏に焼き付けて コノ手デ コノ瞳ヲ 永遠に閉じよう アナタガソレヲノゾムナラ ―その瞳に嘆きの接吻を― 「春太」 聡一さまの声。 「只今」 答えて直にお傍に駆け寄れば 「遅い!」 差し伸べた手を叩かれる。 「呼んだらすぐ来い」 「はい」 「今から、稽古をつけに行く」 「はい」 立ち上がる聡一さまの手を取り 少し肌蹴た着物の裾を直せば もう、良いと短く云われ 側に置いてある箏を持ち もう一度 聡一さまの手を取れば 部屋から一歩踏み出された。 聡一さまは幼少の頃 幾日も高熱に魘され その後遺症から眼を患い 光を失われたと聞いた。 聡一さまの実家は有名な呉服問屋で 尋常小学校を出て直ぐ 俺は丁稚奉公として白木屋にやってきた。 衣の名を覚え 客のあしらい方を覚えた頃 聡一さまと歳の近い俺は 眼の不自由な聡一さまの 身の回りを世話をするよう 白木家の主に云われた。 俺がお傍に仕えるようになったのは 聡一さま14になったばかりの冬。 俺は15だった。 「春太と申します。  本日から聡一さまの・・・」 「うるさい」 ぴしゃりと云われ 張り詰めていた部屋の空気が揺れ 俺など映し出していないであろう聡一さまの眼が 俺を真っ直ぐ捕らえ その場から動けなくなってしまう。 小窓から覗く庭に 深々と降る雪は真っ白で まるで この世界の彩り全てを奪っていくようで 俺の眼に映る聡一さまだけが 唯一の色に見えた。

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