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第26話
「アルト様、部屋着に着替えましょう」
あらぬ妄想に耽っていると、メイソンに声を掛けられてアルトはハッと我に返る。
部屋着を手渡され、寝室へと向かう。
本来、貴族はメイド等に着替えさせてもらって、自分では着替えないものだけど。
メイソンの、服の上からでも分かる鍛え上げられた身体に比べ、病弱なアルトの貧弱な身体を見られる事に抵抗があるのだ。
着替えを終えて戻ると、メイソンがお茶とお茶菓子を用意してくれている、
メイソンは容姿端麗で気が効くので、本当に助かっている。
「アルト様、お茶のご用意が出来ておりますよ」
ドアの所で立ってメイソンを見てると、メイソンはすぐにアルトの視線に気付いて笑顔を浮かべた。
「ねぇ、メイソン。きみは僕の執事になる前は何をしていたの?」
と質問すると、メイソンは少し考えているフリをして
「そうですね……。色々やっておりましたので、忘れてしまいました」
とふんわりと微笑んで話を終わらせてしまう。きっと、人には言えない過去があるのだろう。
アルトが書いていた作品では、メイソンは地方の貧しい貴族の末裔で、病気の母親と妹の為に執事として働いていたのを思い出す。アルトはお茶を飲みながら
「ねぇ、メイソン。きみのお母様と妹さんはどんな病気なの?」
と、つい聞いてしまった。
するとメイソンの笑顔が消えて
「何故、俺の母親と妹が病気なのを知っているいのですか?もしかして、先程の本というのは、もしかして俺の事を調べた調査書だったのでは無いのですか?」
いつも笑顔を絶やさず、自分の事を「私」と言っていたメイソンの豹変ぶりにアルトの顔が強張る。
「ご……ごめん!調べてはいないよ!……そう!父様と母様に聞いたんだよ!」
そう答えたアルトに、メイソンは顔色も変えずに
「おかしいですね。フィルナート公爵と公爵夫人には、俺の家族の話は一切していないのですが……。それを、何故アルト様がご存じなのか?不思議ですね」
誤魔化そうと話を振るが、ことごとくメイソンはアルトの話を打ち消していく。
しかもその目は疑いの眼差しをアルトに送っていて、遂に
「でしたら、先程の本だと言っていた品物を見せてくださいませんか?」
と言い出したのだ。
(ヒィッ!そう来た?)
思わず黙り込んでしまうと
「もし、見せて頂けないのでしたら、私はアルト様の下でもう働けません。使用人の事を信じられず、情報屋に調べさせる方にはお仕え出来ませんから」
そう言われてしまい、アルトは泣き出しそうになる。
しかし、メイソンは顔色を変えずに
「そんな可愛らしい顔をなさっても無駄ですよ」
そう言ってアルトに背を向けた。
「わかった!見せる、見せるよ!でも、これは僕の意志でも無ければ、むしろ僕は被害者だって事を念頭に入れて呼んでよ!」
と言うと、アルトは引き出しの鍵を開けてメイソンに差し出し
「中味は、僕もまだ読んでないから、どんな話なのか分からないけど」
と伝えた。
メイソンがケバケバしいピンクの包装紙を解いて行くと、表紙がバーン!とメイソンとアルトが真っ裸で抱き合っているイラストだった。
(やっぱり……)
目眩を起こしてひっくり返りそうになるアルトとは別に、メイソンは表情も変えずにページを開いて行く。
そしてガックリと肩を落とし
「これは……?」
とアルトに聞いて来た。
「だから、|腐女子《マリアンヌ》の創作物だよ。僕は怖くて、中味を見られなかったんだ」
アルトの言葉にメイソンは溜め息を吐いて
「この件に関しては、分かりました。ですが、それでは何故私の過去の事を?」
そう聞かれて
「太陽の神子の力なのかな?時々、頭にその人の心を占めている事が脳裏に浮かんだりしちゃうんだよ」
と、苦し紛れの嘘を吐いた。
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