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第29話 メイソンの過去~sideメイソン~

 私が生まれたのは、片田舎の小さな村でした。私が小さかった頃は、決して裕福ではありませんでしたが、今ほど貧しくはありませんでした。 人望が厚く村人達から信頼されていた父。 美しくて優しい母。 私と幼い妹の4人で、慎ましく暮らしておりました。 しかし、私が10歳の時に父が流行病に倒れ、闘病の末に他界。 母は女手1つで村や家族を守らなければならなかった。 しかし政を全く知らない母は、自分の叔父に助けを求めたのです。 それが悪夢の始まりでした。 叔父は家族で押し掛け、我が者顔で屋敷を占拠して贅沢三昧した挙句、多額の借金を抱えて逃亡してしまいました。 その時には、屋敷の中の金目の物は全て売り払われており、残されたのは多額の借金だけでした。 16歳になった私は騎士に志願して、そのお金で叔父の借金返済と領地の改革を行おうと考えました。しかし、身分的に王族の騎士にはなれたものの、その稼ぎだけでは借金返済だけで全て消えてしまうのです。 戦地へ行ければ、戦利品や報奨金などでなんとか立て直せるのですが、屋敷を母と幼い妹だけにするにはまだ領地が不安定でした。 そんな時、王の警護で同伴したパーティーで、自分の容姿が人目を引く事に目を付けられました。 パーティーの後、王に呼ばれて多額の賃金と引き換えに、王家に反発する勢力の情報収集する為に王子から指名された女性を落とす役割を与えられました。 その頃の私は堅物で、女性と付き合ったことなどありませんでしたから、王の計らいで高級娼婦に女性を落とす手練手管を学びました。 昼間は王族の騎士をしながら、夜は諜報要員としてたくさんの女性と夜を共にして来ました。 そのお陰で借金返済が終わり、少しずつ農地改革をして農作物が取れるようになり、ようやく昔の生活に戻り出した頃でした。 再び流行病が村を襲い、母と妹が病に侵されてしまうのです。 なんとか一命を取り留めたものの、寝たきりの母と妹を抱えてしまった中、王から自分の屋敷や家族一切を守る代わりに、ある部隊で隊長として取り纏めるように命令を受けました。 その部隊はならず者の集まりで、行く先々で婦女暴行を起こすような連中の集まりでした。 何人もの貴族が上官に収まっても、直ぐに逃げ出してしまいどうにもならないという事で、剣の腕を見込まれて白羽の矢が立ったのです。 実際に現地に赴くと、誰もが好き勝手にやっていて荒れ放題でした。 部下と衝突しながらも、拳と剣で黙らせて来ました。何年も掛けてやっと秩序を取り戻した頃、この部隊の実質の隊長が戦地から帰って来たのです。私が初めて歯が立たない相手でした。 床に顔を押さえつけられ 「お前に選択肢をやろう。俺を抱くか、アイツらに抱かれるか」 そう言われて、私は耳を疑いました。 「何だって?」 聞き返す私に、そいつは高笑いすると 「あぁ……実は私ね、男しか愛せないの」 そう言うと、ゴリゴリマッチョな野性味溢れた男がオネエ言葉を話始めたのです。 「あんた、超私の好みの顔なのよ。ねぇ、あんたが私の恋人になってくれるなら、この部隊をあんたの好きなようにさせてあげる。その代わり、一度でも私を抱けなかったら、飢えたアイツらの餌食になってもらうわ」 そう言われたのです。 負けた自分には、選択肢は2つしかありませんでした。 自分より遥かにガタイの良い男を、毎日、毎日、相手が納得するまで抱き潰す日々。 「メイソン……、あんたを愛してるわ」 それはまるで、美しい人形を愛でるような愛され方でした。 ガラの悪かった部隊が大人しくなり、国王からも感謝の言葉を頂いた矢先、突然激しい咳が止まらなくなり、血を吐いたのです。 それが、自分の村を襲った流行病と酷似していてた為、直ぐに隔離されてなんとか命を取り留めたのですが、その後遺症で左目がほとんど見えなくなってしまったという訳なのです。 騎士として復帰する事も出来なくなり、打ちひしがられていた所に、国王から今回のアルト様の執事のお仕事をご紹介されて私はこちらに参りました。

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