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「今時期で広州の冬くらい? 広州のほうがもっと暖かい?」 「そうだね。真冬でも東京よりあったかいよ」  もう一軒どこか飲みに行くか訊いたが、お腹いっぱいと祐樹が首を横に振ったのですぐにタクシーを拾って家に帰った。  外にいるより家のほうが何かと落ち着く。  大連に来てから祐樹は家にいるのが好きになった。  広州や深センに赴任していた頃は、毎日外食して飲み歩いたりしていたのに、今はできるだけ家で食事もするし部屋でのんびりすることが多い。   理由は孝弘と同じマンションの同フロアの部屋を社宅として割り当てられたからだ。間に二つ部屋を挟んでいるが、ほとんど一緒に暮らしている状態だ。  基本的に祐樹の部屋で過ごすことが多いが、孝弘の部屋にも祐樹用の部屋着やカップは置いてある。  仕事終わりの都合で自分の部屋へ帰ることもあれば、孝弘が部屋を訪ねてくることもあり、いい感じの距離感でつき合いができていると思う。  特定の誰かと恋人としてつき合うのが随分と久しぶりなので、祐樹は初めのころは戸惑った。  大学を卒業してからは恋人と呼べる相手はいなくて、広州や深センに赴任している間は駐在員仲間のアメリカ人やフランス人と時々セックスしていたけれど、恋人というつき合い方ではなかった。  祐樹も相手も期間限定、駐在している間だけのつき合いと割り切っていたから、お互いのプライベートに踏み込むことはなく、会って食事してセックスするだけだった。  それは祐樹にとってはいい息抜きになったし、時には一緒に映画を見たり仕事の愚痴を言い合ったり友人付き合いはしたけれど、それ以上の関係を結ぶことはなかった。  だから孝弘が向けてくる糖度の高い目線や態度は、祐樹にはずいぶんと甘酸っぱいようなくすぐったい気持ちをわき起こさせた。  それでなくても同じ会社の同僚になって、職場でも顔を合わせる相手が恋人だなんてシチュエーションは初めてだ。  どうなることかと思ったが、孝弘は当り前だが、仕事の場で一切そういうそぶりを見せなかったし、青木と祐樹を会社の上司的立場の人として立ててくれている。  中国駐在が初めての青木は何かと言うと「上野くんはどう思う?」と孝弘の意見を求めるし、孝弘は中国人スタッフの言いたいことをうまく織り交ぜて中国事情に疎い青木に説明をしてやるという場面がしばしばあった。  最初は留学生と言う立場から中国にアプローチした孝弘は、中国人の友人知人も多く、自身が中国で起業したこともあって、庶民の生活習慣や考え方もかなり理解している。  駐在員として初めて中国に赴任した日本人の戸惑いや怒りのポイントもよくわかっていて、スムーズにいかない仕事に感情を爆発させそうになる青木を上手にコントロールしていると言える。  つまり職場において孝弘は仕事ができて気遣いもできる男で、中国滞在歴がすでに7年目を迎えるとあって、まだ若いながらも頼りになる存在としてスタッフに認められている。  ところがそのできる男は、部屋で二人きりになればおねだり上手で甘えてくるし、祐樹のことも甘やかしてくれるが、そのギャップに祐樹はとても悶えさせられる。  以前「年下は好みじゃない」と嘘をついて逃げたせいか、再会したころの孝弘は祐樹に対してとても気を張っていたようだ。   特に年下がどうとか考えたこともなかったのに、とっさに口から出てしまった断り文句で孝弘を傷つけてしまったことを祐樹は後悔した。  でも最近の孝弘は、素直に感情を出して甘えてくれることが増えてきて、祐樹はそれが嫌じゃない。というかけっこう嬉しい。

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