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「あっても祐樹は行ったらダメだから」
真剣な顔で言うのがおかしい。
接待でそんな店行くわけないだろうに。いや、プライベートのほうか、この言い方は。ますますないって。
「行かないよ。興味ないし」
「祐樹、絶対モテるんだろーな」
「行かないってば。ただあるのかなって思っただけ」
「ああ、でも噂は聞いたことあるな」
「なんの?」
「北京の話だけどさ、いわゆるハッテン場っていうか、そういう人たちが集まる公園があるって」
「へえ、やっぱあるんだ。…どこ?」
「ん? 気になる?」
そんなことを言いながらちゅ、ちゅと鎖骨から首筋にキスが降りてくる。
「いや。行きたいとかじゃないから」
「でも知りたいんだ」
からかうように孝弘の言った公園は、王府井や故宮からもほど近い大きな公園で意外な感じがした。
「そうなんだ。孝弘、行ったことあるの?」
「あるわけないだろ。何だっけ、まだ留学して来たばっかの頃、みんなで北京観光っていうか、色々見て回ろうって計画してた時に、誰かが言ったんだよ。そこ、夜は集まるスポットだから近寄るなって。だからホントかどうかは知らない」
「あっても不思議じゃないけどね」
「確かに。ゲイバーもどこかにあるんだろうけど、さすがにチェックしてなかった」
「いや、しなくていいから」
「祐樹が言いだしたんじゃん」
「そうだけど。知りたいっていうより素朴な疑問だったんだよ」
「二丁目みたいな場所は北京では聞いたことなかったな」
「接待で行くわけないもんね」
二人で顔を見合わせたら何だかおかしくなってくすりと笑った。ベッドで裸で抱き合って一体何の話をしてるんだか。
「だけど祐樹こそ、女の子のいる店行くことあるだろ?」
「まあ…、なくはない」
男の世界のおつき合いで、接待と言う場で断れない時は当然ある。
「どうしてんの、そういう時」
「適当にしゃべって終わり。面倒な時は体調悪いとか酔いすぎたとか言って寝かせてもらったり」
祐樹は女性を抱けないわけじゃないが興味はない。店の女の子に不能だと思われても痛くも痒くもないが、おかしな噂が立っても困るのでそう言い訳している。
「女の子にとってはいい客だな」
「うーん…。一概にそうとも言えない」
「え、なんで?」
「何もしないとサービス料取れないって文句言われたことある」
そんなクレームを受けるとは思わなくて祐樹も困惑したが、彼女は何もさせてもらえないなんて自分に魅力がないと思われて店での評価が下がると祐樹に食い下がった。
疲れて何もしたくないから金だけ払うとチップを追加したら、それでは悪いからと彼女は普通に肩と背中を揉んでくれた。
「へえ、なかなか仕事熱心と言うか…。まあ金稼ぎたくて仕事してんだもんな」
孝弘は感心したように言う。
「でも今度から俺もそう言おう。体調悪いから寝かせてくれって」
「行かずにすめば一番なんだけどね」
「まあな。でも仕事上の関係だと断りづらいしな。…ちゃんとわかってるから信じてるし、俺のことも心配しなくていいから」
真っ直ぐに目を合わせてはっきり言われて、祐樹は自分の本心を知った。そうか、この言葉が欲しかったのか。
実際のところ、孝弘が店でどうしていようと構わない。もちろん孝弘がこういうのだから本当だろうと信じている。
でもこうして祐樹の不安をわかってくれて、安心させてくれたのが何よりうれしい。きちんと言葉をくれる孝弘のこういうところが好きだと何度も思う。
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