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「いつぐらいだろ、ふわとろ卵のオムライスって食べた時、けっこう衝撃だったな」 「ああ、あれはもう別物だよね」 「うまいけど、ドミグラスソースとかなんたらクリームソースとかかかってるとオムライス感はないよな」    ふと、誰と食べたんだろうと思う。ふわとろオムライスなんて男子が選ぶ食べ物には思えない。孝弘が日本にいたのは高校卒業までだから、高校生の時つき合ってた彼女だろうか。  …いや過去の憶測なんてしてもしょうがない。浮かんだ疑問を祐樹は振り払う。自分がこんなふうに恋人の過去を気にするタイプだとは知らなかった。 「誕生日と言えば、こっちの誕生日ケーキ見たときも結構びっくりしたな」  あまりにもカラフルできれいだからだ。見た目重視なので色とりどりのクリームで花や動物などで隙間なく飾られていて、見ているぶんにはなかなか楽しい。おいしそうかと訊かれたら微妙なところだ。 「デコレーションが豪華だしすごく大きいよね。孝弘、食べたことある?」  味はどうなんだろう?と思って訊いてみた。 「あるよ。留学生寮で誰かの誕生日にシャレで買ってきたんだ、バカでっかい奴。けっこう高かったから人数集めて」 「おいしかった?」 「味は覚えてないな。10人くらいでフォーク持って、せーので一斉に食った記憶しかない」    留学生寮での話だから、孝弘が懐かしげな顔になる。 「楽しそうだね。おれの誕生日はモンブランのホールケーキ買ってたな」 「モンブランのホールなんてあるんだ」 「うちの近くのケーキ屋で秋限定で出してたんだ」 「丸ごとモンブランて贅沢な感じ」 「そうだね。毎年定番だったからそんなもんだと思ってたんだけど、おれが高校生のとき、法事で母親が誕生日にいなかったことがあったんだ」 「うん」 「で、父親がみんなで食事に行こうって晩ごはんに焼肉連れて行ってくれて」 「男5人の焼肉ってすごそうだな」 「うん。滅茶苦茶食ったよ。食べ放題だったけど、高校生とか大学生だから肉の質よりもとにかく量だしね」 「想像つくわー」  男兄弟4人の焼肉食べ放題を想像して孝弘が笑う。男ばかり賑やかな食卓が目に浮かんだのだろう。 「で、帰りにイチゴの誕生日ケーキ買ってくれて。それもうまかったし嬉しかったけど、帰って来てから母親が3日遅れだけどって、週末にわざわざちゃんといつもの料理作って、モンブランも買ってくれて。それが意外と嬉しかったの今でも覚えてる」 「いいお母さんじゃん」  孝弘の台詞に祐樹は、胸の中ではっとした。  孝弘の実の母親は小学3年生のとき離婚して家を出て行ったらしい。うかつに母親自慢みたいな話をして気遣いがなかっただろうか。  離婚理由は聞いていないが、まだ小学生の子供を母方が引き取らない事情があったのなら、突っ込んではいけないかも。内心焦ったが、孝弘はべつに何の屈託も見せずに笑っている。

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