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 ざっと写真を撮って回った後、中山路を通って新しくできたばかりの勝利広場というショッピングセンター方面へ向かった。  地下3階まである巨大なショッピングセンターで、中国系はもちろん外資系ファーストフードも入っていて今、大連っ子にもっとも人気のあるスポットだ。  その向こうには、旧日本人街の連鎖街があるからついでに足を延ばすことにした。大連駅前に戻ることになるが、散歩がてら見て回るのにちょうどいい距離だった。 「でも社内報とかちゃんと読んでるんだ」 「そこまできちんと見てないけど、人事異動とか売上一覧も載ってるから一応チェックする」 「ああ、同期がどこにいるかとか?」 「うん。あと、書いた記事がメールマガジンで配信されるみたい」 「メルマガ? 一般向け?」 「そう。これも本社の広報が出してるみたいけど、そっちは読んだことないな」  インターネットの普及に従ってメールマガジンの数はうなぎのぼりに増えている。各企業も広報の一環として発行するのが流行らしい。 「そういや、櫻花公司のメルマガも出すとかなんとか言ってたな。あれ、もう出してるんだっけ?」  夏の終わりごろ、ぞぞむからそういう話を聞いた気がする。でもこちらに赴任して忙しくしているうちにすっかり忘れていた。 「孝弘たちが何か書くの?」 「いや、書いてない。ネット関係はぞぞむの弟の将太が日本で全部引き受けてくれてて。翔太が日本の客向けに中国の小ネタを書くとか聞いたな。まあ、ネタ元はぞぞむや俺の中国びっくり話だろうけど」 「ぞぞむに弟がいるんだ」 「ああ。高校中退して引きこもりの弟だって。俺もまだ会ったことないけど」 「ふうん。引きこもりなの? なんか意外」  あのバイタリティあふれるぞぞむを見ていると、そう思うのも無理はない。 「だよな。全然似てないんだって。でも電話でしゃべる限りはふつーの男の子。っつっても、もう……22歳かな」 「22歳ね。今も引きこもりなの?」 「よく知らない。でもうちのHP全部作って、商品写真撮って説明付けて、発送から在庫管理から全部やってくれてるから、もう普通に社会人みたいなもんだろ。ちゃんと会社から給料も出してるし」  今のところ、ネットでの売り上げはそんな大きな金額ではない。だがぞぞむは今後は個人のネット購入が増えると断言していて、孝弘もそうなっていくと思っている。  ぞぞむもレオンも日本向けには今後の展開をどうするか、検討しているところだ。間野が少数民族の布を使ったワンピースやアクセサリーなんかをデザインしていたから、日本向けにはアパレルメインで売る計画を立てているのだ。  縫製工場はもう見つけてあって先日契約を済ませたはずだ。  本業である中国雑貨の卸もかなり好調で、レオンは今期の売り上げがすでに前年比200%を達成したと言っていた。  ぞぞむは自分好みの手工芸品ばかり仕入れているわけではなく、ちゃんと普通の商品の取引もしているのだ。レオンがしっかり手綱を握っていると言うべきだろうか。  それに今後は櫻花珈琲店の店舗展開もかなりの速度で進むだろう。現在の経済発展の波は都市部から急速に地方に広がっていて、沿岸部だけでなく内陸部の都市にも波及している。  歩きながらそんなことを話したら、祐樹がため息をついた。

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