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「北京の公園で太極拳見せてくれたことあったよね」  赤やピンクのカラフルな扇を持って太極拳をしているグループを見て、祐樹が言いだした。 「え? 太極拳?」  何を言われたかわからずに、孝弘は祐樹を見返した。  祐樹は懐かしそうに目を細めている。 「天壇公園に朝早くにタクシーで行って、朝ごはん食べて散歩したの、覚えてない?」  そう言われて思い出した。  北京研修時代の話だ。  夕食時の雑談で祐樹が天壇公園に行ってみたいと言うから、早朝の公園にタクシーで案内した。そのついでに庶民の朝ごはんを食べさせたのだ。  路上の屋台で食べる庶民の朝食に祐樹は驚いて、でも楽しそうに試していた。  その後、公園内を散歩しながら体育の授業で太極拳を習ったことを話したら、見せてと言われてほんの少しやってみせたことがあった。 「…ああ、あれ。よく覚えてたな」 「言ったでしょ。孝弘と行ったところは全部覚えてるって」  そんなことを優しく微笑みながら言うから孝弘は「どうしてくれよう」と胸の中で身悶えた。人目が無かったら思いきりキスしてやるのに。  部屋に帰ったら覚えてろ。そんなかわいい顔で、かわいいこと言っちゃって。 「俺も覚えてるよ。朝ごはんで飲んだ酸《スワン》ナイ気に入って、あの後から買うようになったこととか」  瓶入りのストローで飲むヨーグルトが初めてだった祐樹は、ほどよい甘さと柔らかさがお気に入りになった。 「うん。孝弘に教えてもらわなかったら、あれは知らないままだったと思うな」  大きな広場を一周して色んな風景を撮って、少し歩いた先に新しいスーパーがあるから見に行くことにした。最近店舗数を増やしている中国系チェーンのスーパーだ。 「孝弘ってスーパーとか市場好きだよね」 「え、そうか?」 「うん。どこの町行っても、絶対入るでしょ」 「…言われてみればそうかも」  自覚がなかったので指摘されて首を傾げた。そんなにスーパー好きだと思っていなかったが、祐樹がこう言うくらいだからそうかもしれない。 「町の発展度合いがわかるからかな? 今って新商品がどんどん出てるから、ついこまめにチェックするんだよな」 「確かに。この前までこんなラーメンなかったとか、新しいドリンクとか調味料とかすごく増えてるもんね」  スーパーの入口まで来て、祐樹が急に笑い出した。 「どうした?」 「今、坂本さんのメール思い出した」 「ああ、あれ」  孝弘も小さく吹きだした。  孝弘が瀋陽事務所の駐在員、坂本からのメールに大笑いしたのは先々週のことだった。添付されていた写真を見て、祐樹の目も丸くなった。  PC画面にレールの上を移動する子供用オープンカーのような乗り物に乗った坂本が満面の笑みでピースしていた。乗り物はスペースシャトルのつもりらしい。  

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