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「ああ、先輩ね。今はドイツ赴任中だよ。子供も生まれたって話は聞いてるけど、連絡してないから詳しくは知らない」
「そうなんだ。結婚生活がうまくいってるならよかったな」
「もともと先輩はゲイじゃないし。いいお父さんになってると思うよ」
話は終わったと思ったのに、孝弘はグラスにワインを追加してまだ質問を続けた。
「大学も一緒だったんだっけ?」
「同じ大学だけど、おれが入学した年に先輩は卒業したから、大学で会ったことはないんだ」
「あ、そっか。けっこう上だったっけ?」」
「おれが中1の時に高2だったからね」
「ふうん」
今日の孝弘は酔ってるんだろうか。
飲み慣れないワインが回ったとか?
こんな話題を持ち出すなんて大丈夫なのかと祐樹はちょっとひやひやする。でも口調は穏やかだし、顔色を見ても特に酔ったふうでもない。
「中高時代の祐樹、かわいかったんだろうな」
「まあね。女子みたいって言われてたよ」
「写真ないの?」
「持ってくるわけないでしょ」
「残念…。高校時代は?」
「急に背が伸びて、近くの女子高生に王子さまって言われて嫌だった」
孝弘が声を上げて笑う。中学時代のあだ名は姫だったことは言わないでおいた。言ったら爆笑するだろうけど。
「男子校だよな? モテた?」
「そんなわけないでしょ。男子校だからってそんなにゲイに出会わないって」
「そりゃそうか。大学では?」
「ゲイの友人が初めてできたのは大学だけど、、そんなに多くないよ」
自分の性指向に疑問を持って女子を好きになろうと努力して悩んで苦しかった中学高校時代とは違って、ゲイであることを認めた大学時代は楽だった。
大澤が言った通り、大学には色んな人がいた。中にはゲイもバイもいたけれど、もちろん少数だった。それでも祐樹にとっては貴重な友人になって、今もつき合いが続いている。
お互い寂しい時にセックスする仲だった友人もいるが、今はただの友人だ。
それにその頃知り合ったゲイの友人と言うなら、恋人の交友関係で知り合ったほうがはるかに多かった。10歳も年上の初めての同性の恋人は、祐樹をあちこち連れて歩いてたくさんのことを教えてくれた。
彼は祐樹をとても可愛がってくれて、恋愛って楽しくて嬉しくていいものだと祐樹は初めて実感した。
後にその東雲とはやむを得ない事情で別れてしまったけれど、今思い出しても大人の彼からはとても大切にされた記憶が残っている。
別れて以来音信不通だった東雲とは、思いがけないきっかけで大連赴任直前に会うことになり、7年ぶりに話ができた。妻と二人の子供に恵まれて、仕事も順調な彼は幸せそうに微笑んだ。
孝弘の話をすると、祐樹にパートナーがいてほっとしたと安堵のため息をついていた。あの頃、この人が本当に好きだったなあとしみじみ思い、この恋愛がこうして穏やかな決着を迎えたことが素直に嬉しかった。
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