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 江沢民訪日のニュースが終わり、天気予報になったところで孝弘が「風呂入ろう」と祐樹を誘った。冬の大連に雨はまず降らないので天気予報を見る必要はない。  向かい合って湯船につかると、何度も一緒に入っているのに祐樹は今もちょっとドキドキする。孝弘が一緒に入る時は風呂でいちゃいちゃして、風呂上りにそのままベッドになだれ込むという流れがもうできている。  しっかり者の孝弘がそうやってちょっと甘えてくる感じが祐樹はけっこう好きで、だから風呂に誘われると断らない。  何度か一緒に風呂に入っているうちに何となくルールができた。たいてい髪はそれぞれ自分で洗って、体はお互い洗いあうというものだ。  ボディタオルを使うこともあるが、素手にボディソープを盛って柔らかく洗う。単にじゃれあっているだけと言ってもいい。  日本式ではなく洋バス仕様だから洗い場はなくて、浴槽はさっきのシャンプーですでに泡だらけだ。お湯の中で足の指の間まで指を滑らされて、祐樹は困った顔になる。 「孝弘、くすぐったいよ」 「動かないで、祐樹。洗えないだろ」  くすぐったい上に何だか恥ずかしい。今さら足の指を洗われるくらい大したことじゃないはずなのに。もっととんでもないところだって触られているのに。  孝弘は澄ました顔をしているが、口元がにまにましている。それがかわいいなと思っていたら、孝弘が言った。 「祐樹のそういう顔、かわいいな」 「何言ってんの、かわいくないって」  かわいいのはどっちなんだか。でもそれは口には出さずに拗ねた口調で言ってやったら、ちゅっとおでこにキスをされた。 「お湯、入れ直す?」 「うん、つかってから上がろうかな」  シャワーで流してそのまま上がることもあるが、今日はきれいなお湯につかりたい気分だった。栓を抜いて、シャワーで体を流しているうちにお湯が無くなる。  ざっと浴槽も流してからもう一度湯をためる。大人の男二人が入っているから、さほど時間はかからない。冷えないようにと孝弘が背中から腕を回してくれて、二人で密着した。背中に心臓の音が伝わってくる。 「そういえば、祐樹。日本で聖戦士星矢《セイントセイヤ》ってアニメ見てた?」 「え、聖戦士星矢?」  唐突に訊かれて首を傾げる。そのタイトルはもちろん知っている。祐樹が学生時代に流行ったマンガだ。 「マンガは読んでたけど、アニメはほとんど見てなかったな」 「そっか。朴さんが今ハマってるって言ってたから」  朴栄哲は日本びいきで、日本のマンガやアニメが大好きだ。そのせいか流暢な日本語を話すけれど、時々会話がマンガ風やアニメ調になることがある。

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