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「元気元気。今、新疆《シンジャン》に行ってて、絨毯と葡萄酒買い付けてる」
「新疆! そりゃまたえらく遠いところに行ってるねえ」
「ウイグル族の手織り絨毯が欲しいんだって」
「相変わらずだね。ぞぞむ、厳しいから絨毯織りの子たちも大変だ」
「ぞぞむは厳しいんですか?」
「いやいや優しいよ。でも厳しい。縫い目が揃わないと買ってもらえない」
祐樹の質問にお母さんは破顔した。そんなことまで気にかけて作っていなかったから、ぞぞむの要求に最初は戸惑ったらしい。
だが雑貨好きなだけあってぞぞむの情熱が相手に伝わるのだろう。最初は縫い目が不揃いでほつれかけていたりと適当だったが、丁寧に根気よく説明して商品として出せるまで改善させてきた。
日本人の目から見て商品として出せる水準になるまでには、お互い色々ぶつかりあったりもしたが、継続的に仕事をくれてきちんと金を支払うことを繰り返していくうちに、信頼関係ができ上がって行ったのだ。
「松本《ソンベン》も厳しいよ。でもかわいいね」
「松本、厳しい?」
「でも新しい商品を教えてくれる。ぞぞむの彼女って訊いたら違うって」
「松本のほうで嫌がりそうだな」
「どうして? ぞぞむ、いい男でしょ。優しいしよく働くし」
お母さんはぞぞむがお気に入りのようだ。
「松本の好みはイケメンなんだって」
「イケメンかあ。…ぞぞむも悪くないよ」
「ぞぞむはいい奴だけど、私の理想は張学友《ジャンシュエヨウ》なの」
笑いながら聞いていた松本が口を開いた。
「ほおお、張学友」
今人気の男性歌手の名前を出されて、その場は笑いに包まれた。
もう一つの村でも同じようなやりとりをして、ほろ酔いで車に乗った。どちらの村でも自慢の一品をお土産にくれた。両面刺繍の時みたいに孝弘は客である祐樹に選ばせてくれた。
「イ族と白族って全然衣装違うんだね」
「そうなの。どっちもきれいで凝っててかわいいでしょ」
「そうだね。かわいかったけど男性は民族衣装って着ないの? 男の人たちは普段着だったね」
「あるんだけど、今はもうほとんど着ないみたい。女性は母から娘へ刺繍を教えて伝わってるけど減って来てるし。民族衣装の刺繍は手間暇かかるし、既製品が安くて楽だからだんだん着なくなってるんですって」
「あんなきれいなのにもったいないね」
「そうよね。でも日本だって民族衣装って着ないから、あんまり言えないかも」
「つーか着物は一人で着られない時点で無理だろ」
「確かに。…でもこうやって村を回るのは大変じゃないですか?」
車に戻って祐樹が訊ねた。受け取って来た商品はトランクに積んである。なかなかの量だった。
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