80 / 113

10-6

 孝弘が仕事上で女性と接する時はかなり礼儀正しい態度でいる。仕事はきちんとするが、馴れあうような隙は見せない。余計な好意を持たれないようにふるまっていることを祐樹は知っている。  でも今は力の抜けたリラックスした顔をしていて、気軽に軽口をたたいている。こういう雰囲気の孝弘も好きだ。友人に見せる顔はこうなのか。  二人共通の友人はぞぞむとレオンくらいしかいない。だから留学生時代を除いて、孝弘がこんなふうに気を使わない態度でいる姿を見るのはほぼ初めてだった。  松本にそれだけ気を許しているとも言えるし、女性としては見ていないという意味になるんだろうか。留学生時代からと言うなら祐樹より長いつき合いかもしれない。  その間に恋愛関係になったことはないのかな……。何、考えてんだか。  食後は早速、大理へと移動した。 「国慶節で多少道は混んでるけど、のんびり行きましょう」 「ええ、急いでないから大丈夫です」  大理へ向かう途中で白族とイ族の二か所の村へ寄った。祐樹が工房を見たいと言ったからちゃんと話をしておいてくれたのだ。田舎の素朴な民家がぽつぽつと点在する農村だ。  カラフルな民族衣装を着た女性が迎えに出て、休みの日に押し掛けたのに嫌な顔をすることなく「遠くからまあまあようこそ」と歓迎してくれた。  そこで自宅工房という表現がぴったりの、昔ながらの機織り機が2台置かれた小さな部屋で、白族のお母さんが布を織るところや、その娘がおり上がった布でバッグを作る作業を見せてもらった。 「ほら、この模様が白族独特のものなの」  それぞれの民族にそれぞれの模様があり意味を持っているのだ。  孝弘がお土産に持ってきた白酒と紹興酒を渡すと嬉しそうに礼を言って、食事に誘ってくれた。親戚などが集まってこれから宴会だという。食事は食べてきたと言ったがどうぞどうぞと勧められて席についた。  いくつものほうろうの洗面器におかずがどんと入って、テーブルいっぱいに並んでいる。一般家庭のよくある宴会風景だと知識で知っていたが、農村の一般家庭にお邪魔したのが初めてなので現物を見るのは初めてだ。  15人ほどの親戚が集まって中国式の乾杯で宴会が始まり、礼儀として祐樹も含め3人が盃を空にするとみんなにこにこと笑顔になった。  料理は正直あまり口に合わず「お腹いっぱいなのですみません」とそこそこで遠慮した。 「こういう村の人って、ぞぞむが見つけて来るの?」 「そう。市場で声かけて。あいつは元々こういう手工芸品が好きっていうか、民芸品好きっていうか。それで中国雑貨の卸なんか始めたし。見た目からは想像できないけどな」  ぞぞむは大柄な体つきで顔も精悍な感じだ。いわゆるハンサムではないが、人好きのする笑顔が魅力的で、何よりパワーあふれる雰囲気が人を惹きつける。そんな男は意外にも雑貨や民芸品が大好きなのだ。 「おー、ぞぞむ。元気?」  ぞぞむの名前にお母さんが反応した。

ともだちにシェアしよう!