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「だけど店をしながら工房も回るの大変でしょう」 「工房に回収に行くのは月に1回って決めてるから、そんなに大変じゃないですよ。契約してるとこが今8カ所くらいあるんですけど、近いとこは一緒に回るから、月に4日くらい工房に行く日で、あとは店にいますね。売れ行きよくて商品が足りない時はもう一度取りに行くときもありますけど」 「正直どうよ? 店は大変?」  孝弘が松本のグラスにビールを注ぎ足して、ビールの追加を頼んだ。松本はけっこう飲めるようだ。旺盛な食欲で食べながらの会話が続く。 「それが意外と順調。もっと安い店もあるし少数民族の定期市もあるし、そもそもみやげ物屋が多いからそんなに売れないだろうなって思ってたけど、バックパッカーの口コミが大きいの。日本人経営で安心できる店ってイメージがついたらしくて」  ちょうど日本が夏休みにあたる7月にオープンしたのがよかったのだと言う。最初の客だった女性の日本人バックパッカーがいい評判を広めてくれたらしい。 「カフェや宿にある情報ノートとか見て来る人も多いみたいよ」 「へえ、そういうのでちゃんと客が来るんだ」  祐樹はちょっと驚いた。口コミが大きい力を持つのは知っているが、情報ノートなんてアナログなものがそこまで影響を与えるとは思っていなかったのだ。 「そうなんですよ。最近は日本人バックパッカーが増えてるから、口コミは侮れないんです」 「日本人が増えてる? 中国って旅行先として日本人にそんなに人気ないでしょう?」 「中国と言うよりアジア全体に日本人バックパッカーが増えてるみたい。テレビ番組の影響で」  96年4月に始まった日本のテレビ番組で、芸人が香港からロンドンまでヒッチハイクで旅をするという企画が大ヒットして、バックパッカースタイルの旅が広く知られることになった。    その影響でバックパッカーが増えたのだ。陸の国境を越えて東南アジア各地を旅する者も多いらしい。その気持ちはちょっとわからなくもない。祐樹が越えたことのある陸の国境は深センから香港しかないけれど。 「へえ、テレビの力ってすごいな」 「本当ですよね。でもおかげで今のところ売り上げは順調です。うちは女性客も多いし」 「そのワンピースすごくかわいいですね」 「ありがとう。こういう藍染商品は大理にはたくさんあるけど、うちは桜の模様をメインに出してて。縫製もよそより丁寧だし。これ着て昆明とか歩いてると声掛けられるんです。どこで買ったのって」 「そっか。自分が広告になるんだ」 「そうそう。このバックもそうだけど、うちの商品けっこういいですよ」 「そのうちガイドブックに載るかもな? 大理で安心して買い物できる店って」 「あるかも。だってあれ、投稿者の情報を元に作ってるんでしょ」 「ああ。松本の写真入りで紹介されるように頑張れ」 「美人看板娘って?」 「…ちょっと飲み足りないみたいだな、白酒《バイジュウ》いっとくか?」 「いいわよ、でもつぶれるのは上野だからね?」 「うわ、出たよ。酒豪はこれだからなー」 「いえいえ私が酒豪なんておこがましいです~」  孝弘が嫌そうに顔をしかめる。どうやら松本はかなり飲めるらしい。和やかな笑い声に、学生時代の友人っていいなと祐樹は思う。

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