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「二人とも疲れたでしょ」 「この車だから大丈夫。でも長距離バスだったら無理だったと思う」  祐樹がため息交じりに答えた。途中で路線バスを抜いたりすれ違ったりしたが、座席も狭そうだったしバスの上にはこぼれ落ちそうなほどの荷物が積み上がっていた。何よりどのバスも満員で、あの中にはとても乗りこめそうになかった。 「俺もあのバスには乗る気になれないって」 「でも以前は長距離バスに乗ったりしてたんでしょ?」 「ぞぞむと新疆行ったときな。まだ学生で他に交通手段がなかったし。仕事では車チャーターすることがほとんどだよ、時間がもったいないから」 「そっか」 「二人は夕食はどうする? 食事してから宿に送ろうか? それとも古城内で食べる?」  時間を見たら道路が混んだせいで結構遅かった。運転手を家に帰したほうがいいと孝弘が言って、車は古城前で帰した。気のいい運転手はにこにこと帰って行った。 「た、上野くんはお腹空いてる?」  孝弘といつもの癖で言いかけて、あわてて言いかえた。駐在員の同僚なのだから、名前呼びはまずいだろう。 「村でもちょっと食べたし、よくわからない感じだな。松本は?」 「私はいつも夜そんなに食べないから」 「飲んでばっかなんだろ」 「失礼ね。そんなことあるけど」  冗談に笑い合って、それならここで解散しようと孝弘が決めた。 「女の子を一人で帰していいの?」 「わあ、そんなこと言われたの久しぶり!」  祐樹が心配すると松本は「平気ですよ」と笑った。仕事かえりはもっと遅いし、人通りもあるから心配ないと言う。  大連から持って来た日本の調味料とレトルトセットをみやげに渡すと嬉しそうに受け取って、あっさり手を振って別れた。 「ここらへんで食事してから宿行こうか」 「うん。聞いてたけど洋食がけっこうあるんだね」  通りには英語表記や若干あやしげな日本語の表記の店もある。すこし迷って洋食を出すツーリストカフェに入った。田舎町の洋食ってどんなだろう?という興味がわいたのだ。  このエリアには日本食を出すカフェもあって日本人バックパッカーのたまり場になっているが孝弘は行ったことがないと言う。 「でも今回は行ってみようかな」 「どうしたの?」 「情報ノート見てみたい。もし店の情報が書いてなかったら、いい商品を置いてる店だって書きこんでこよう」 「いいね。売上げ伸びる?」 「どうかな。バックパッカーってそんなにみやげ買わない気もするし」 「でも口コミの力が大きいって言ってたし、書いてみたらいいんじゃない」  ハニ族の料理人が出してくれたピザもカフェオレも普通においしく、外国人旅行者が多い田舎町の特性を見た気がした。デザートにプリンまで食べて、ゲストハウスに行った。

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