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 広い中庭があるタイプの開放的な宿で何度も来ているという。ぞぞむと一緒に2ヶ月近く泊まりこんだこともあるらしい。フロントの女の子は孝弘の顔をまだ覚えていた。  多人房《トウレンファン》(ドミトリー)はダメと孝弘が却下して、三人部屋を包房《バオファン》(貸切)した。疲れているので仕切りもない大部屋で他人と顔を合わせるのはさすがにしんどい。  シャワーとトイレは共同だが貸し切っても50元ほどと聞いて驚く。日本円で700円だ。部屋はシンプルだがベッドは清潔でテレビもあった。 「結構広いし、きれいだね」 「大丈夫? シャワーとトイレ付のツインもあるけど」 「ううん、ここでいいよ」  リュックを床に置いて、ベッドにごろっと転がった。孝弘が横に並んで、肩ひじをつく。 「お疲れ、大丈夫?」 「うん。さすがに疲れた。でも色々楽しかった、ありがとう」 「別に何にもしてないけど?」 「松本に昆明まで来るように手配したの、孝弘でしょ」  空港に迎えが来てると言われた時はやりすぎな気がしていたが、あの長距離バスを見て、昆明まで迎えを手配したのはこのせいかと理解した。  国慶節の帰省時の路線バスのすさまじさを祐樹はわかっていなかったのだ。 「ああ、まあな。松本が昆明で用事があったのも本当だし、途中で村に寄れるからちょうどいいと思ったから、都合もよかったんだ」  そう言いながら髪を撫でる。指先が後頭部に回って口づけられた。 「祐樹と大理にいるなんて嘘みたいだな」 「おれのほうがそう思うよ。孝弘が一緒じゃなかったら、雲南省なんて一生来ることなかった気がする」 「だよなあ。観光地にも歴史にも興味ないもんな」 「まあね。でも孝弘と来てよかった。香港のゲストハウスを想像してたから、こんなきれいだと思ってなかった」 「ああ、そういうのだと思ってたんだ。ここは三人部屋だからそれなりにきれいだけど、ドミはもっと雑然としてる。でも香港の安宿とは雰囲気が違うよな」 「うん。明るくなったら中庭見てみたい」  その夜は二人で一つのベッドに入って、抱き合って眠った。

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