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「みやげ物、見てもいい?」
「いいよ。その方がおれも楽しい」
二人でぶらぶら歩いて通りに並ぶ店を回る。孝弘はもちろん買い物ではなく、他店の商品チェックだ。いくつかの小物や服を買って、店主にさりげなくどこで仕入れているかも訊いていた。
「なんか不思議な町だね」
英語が飛び交う旅行者が集うカフェで休憩しながら、通りを歩く人たちを眺めていると自分がどこにいるのかわからなくなる。
大連で仕事をしているのが幻のようだ。
歩き疲れて宿に戻った。
その宿には池のある中庭やソファやテレビを置いたリビング的な共用スペースがあって、昼も夜もそこでコーヒーや酒を飲んだり本を読んだりだらだらとしゃべったりしている旅人が何人もいた。
シャワーを浴びたあとにそのリビングでお茶をいれた。
それを飲みながら話してみたらヨーロッパや北米などから来た長期滞在者たちが多く、休暇を使って3ヵ月ほどかけてアジアを旅しているとか、夫婦で1ヶ月かけてネパールからチベットを抜けてここに来たとか、もう1年くらい世界中を回っているとか、祐樹が想像したこともないような旅をしている人たちだった。
日本の長期休みの時期ではないから数は少なかったが、日本人バックパッカーにも出会った。
ここからさらに南下してベトナムやラオスに抜けるという者もいれば、バスルートでチベットに向かうと言う強者もいた。反対ルートからここへ来た旅行者に情報をもらって行くらしい。
チベット自治区のラサへ入るために外国人に開放されているのは成都から飛行機で入るルートが一般的だが、ゴルムドからのバスのほうが格段に安いのでバックパッカー達はそちらを選ぶ。
高山を越えるバスはきれいでも安全でもなく、何より道路事情が相当悪い。報道規制のある中国では報道されないが、崖のような道を通るから転落しているバスもかなりあると聞く。
自分なら金を払ってでも飛行機で行くなと内心思う。一度、土砂崩れを経験して入院したこともあるから、それは身に沁みてそう思うのだ。金で買えるなら安全なほうがいいと。
でもそんな余計なことは口に出さずに話を聞きながら紅茶を飲む。
「今、鉄道も建設中らしいけど」
「ああ、西寧からラサまでだっけ? まだ5年くらいは先だろ」
「でもできたら乗ってみたいよな。4000m級の山の上を走る鉄道だろ」
そんな高地に鉄道を通す計画があるのか。祐樹は興味がないから知らなかったが、かなり有名な話らしい。数人が加わって、チベットに入るルートで盛り上がっている。
「これにガイドブックにない最新情報あるから、見ておくといいですよ」
まだ若い学生だろう旅行者が、机の上の籠を指した。松本が言ってた情報ノートってこれか。おれはそんな所には行く気はないけど…と思いながらノートをめくった。
安くておいしい食堂とかヒッチハイクにいいルートとかどこどこのガイドはぼったくるので要注意だとか、バスのチケットや国境越えのビザの取り方だとか、そういう生きた旅の情報が色んな言語でたくさん書いてあった。
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