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祐樹は海外に興味を持たないタイプだったのでこういう旅もしたことがなく、しようと思ったこともなく、そのノートを読んだ感想はごく単純に「すごいな」だった。
祐樹ならさっさと旅行社に頼んでチケットと宿を手配してしまう。たとえ手数料を取られても快適に安全に行きたい。
もっともあまり辺境に行くと旅行社もタクシーもなくて自力で手配(というか情報ノートによるとそういう場合の手段はヒッチハイクらしい)するしかないのは分かるけれど、そもそもそんな地域には行かなくてもいいと思ってしまう。
こんな面倒なことをして何ヶ月も旅をしている人たちがいるんだ、と驚きの目で目の前のバックパッカー達を眺めた。地球を半周ほどしてここに辿りついた人もいるのだ。
中には中国語はおろか英語もろくに話せない若者もいて、その勇気と無謀さに呆れるような感心するような…。
「あと都市部なら最近はインターネットが使えるから、そっちもチェックしたほうがいいですよ」
「へえ、そうなんだ」
「洋人街にパソコンが使えるカフェありますから。30元以上のメニューを頼んだら30分使わせてくれますよ」
若者は何も知らない祐樹に親切に教えたつもりなのだろう。どこか得意げな彼に素直に礼を言っておいた。
「うん、ありがとう」
そこまでして辺境を旅する彼らの情熱は一体どういうものなんだろう? 孝弘には彼らの気持ちがわかるんだろうか。
孝弘も似たような旅をして買付けに行くから、わかるのかもしれない。いや、買付けに行くのはぞぞむのほうか。孝弘はつき合いで行くけれど、望んで行くわけではないようだし。
「色んな人がいるんだね」
部屋に戻ってさっきのやり取りを孝弘に話したら、ベッドで何か書いていた孝弘はにやっと笑った。
「面白いだろ? とにかく安く行きたいって奴もいれば、どこどこの寺院が見たいとか、何とか民族の祭りを見に来たとか、ただなんとなく流れに任せてたらここに着いたとか、色んな奴がいて」
そうやってどこかの町に流れ着いて長く留まることを「沈没する」と言うらしい。旅人の沈没地、大理はそういう町だと言う。確かに妙に居心地がよく、ぼんやりしたくなるのはわかる。
不思議な感覚だった。東京や大連のビルで仕事をしている自分がバックパッカー達の泊まる安宿で沈没することだってあるかもしれないのだ。
…いや、やっぱないかな。3日くらいで飽きそうな気がする。でもどうだろう。東京へ異動希望を出したときの自分だったらそういうこともあるだろうか。
「前もそうだった?」
「うん。ぞぞむと一緒の時は市場行って買い物ばっかしてくるから、担ぎ屋だと思われてた。どこで商売してんの?って訊かれたな」
担ぎ屋とは行商人のことだ。あちこちで商品を仕入れて、また別の場所でそれを売り、それを元手にまた商品を仕入れるといった具合だ。
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