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#2―過去―
床に母が倒れると、俺は息を切らして声を荒らげた。まるで絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたような憤りのない感情だった。
『全部俺の所為にするな! ずっとボヤボヤしていた母さんが悪いんだ! 何も知らない癖に……! 俺の気持ちなんか何もわからない癖に…――!』
そう言って感情的になったまま、彼女にその言葉を浴びせると、急いでリビングから出て玄関に向かった。そして、落ちた鞄を拾うとそのまま靴を履いて玄関の扉開けた。
『待ちなさい弓弦!』
母は急いでリビングから出て来ると大きな声で名前を呼んだ。俺は玄関の前で後ろを振り向くと最後に一言別れを告げた。
「俺を産んでくれてありがとう。母さんはどう思うかわからないけど、『家族ごっこ』楽しかったよ――」
その言葉を口にすると、そのまま外に向かって一歩前に踏み出した。そして、扉を静かに閉めて家から出て行った。
その日、家から何一つ持ち出す事もなく。俺はそのまま家から出て街を彷徨い歩いた。もうあの家には二度と帰らないつもりだった。
その覚悟が俺にはあった。行く宛もなく彷徨い歩いて、月明かりの下で都会のネオンの明かりを橋の上でジっと眺めていた。風は冷たく俺の身体を風が吹き抜けた――。
「寒い……」
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