21 / 27

新人研修。

――そこから彼との3ヶ月に及ぶ、地獄の新人研修が始まった。 初日で彼との出逢いは強烈過ぎた。すっかり彼の前で肝を冷やすと、なるべく怒らせないように言われた事はテキパキと自分から動くようにした。彼の前では愛想よくニコニコしながら返事をして機嫌をとった。それはまるで『機械的』に。 ニコニコしてた方が目をつけられる確率が減るという打算的計算だった。だが彼は今だに俺に心を開こうとはしなかった。むしろ、ますます眉間にシワを寄せながら厳しい目で俺の事を見てきた。 彼の前で甘いマスクで接していればこの関係性にも少しは和やかなムードが流れるだろうと思っていたのは俺の勝手な誤算だった。 どうも『葛城信一』と言う男は無機質で生真面目な性格の上に、対人関係にしても頑なにガードが固かった。俺の『仲良し作戦』は彼の前で見事に失敗した。そして、目まぐるしい新人研修の毎日が加速して行った――。 「はぁ~、しんどい……」 「あらら? どうしたの慶ちゃん。そんな疲れた溜め息なんかついちゃって。はじめた仕事が上手くいかないの?」 「んー? いや、別にそうじゃないんだよなぁ。まあ、今の所順調かな。仕事始めたばかりだし。それにまだまだ覚える事は沢山あるけれど、別に苦とか思ってないよ。それに自分で『選んだ』道だしさ――」  口にマドラーを咥えるとカウンターの前で両肘をついて考え事をしながら呆けた。すると、目の前で俺の話を聞いていたゲイバーのママ。『千尋』さんが興味津々に訪ねてきた。 「はは~ん、さては恋? 慶ちゃんが誰かに恋するなんて珍しいわね。で、どんな人?」 「ちーママ、冗談はやめて下さいよぉ……」  「あら? じゃあ、新しい恋人でも出来たの?」 「そうじゃないですってば~」  目の前にあったカクテルグラスを手に持つと、一気に飲み干し。ほろ酔いした気分になった。

ともだちにシェアしよう!