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出逢いは突然に。

「……ゴホン。まあ、いいだろう。それよりもこれからについて話しておく。キミは、うちの会社の『人間』になるのだからこれから外回り営業や、取引先や、クライアントの前で恥をかかないようにしっかりと私が教育するつもりだ。それに第一私に恥を欠かせないようにして貰いたい。私は、課長から直々にキミの教育係りを頼まれたが本当は直ぐに断るつもりだった。それが『何故』だかわかるか?」 「え、いえ……。わかりません。何故ですか?」 「それは私自身が教える余裕が無いからだ。こうみえて私も第一線で活躍してるから、取引先での仕事が多くて忙しい身なんだ。わかるか? それに新人を教育した所で、私が恥をかく羽目にでもなったら自身の評価にも響く。私はそれが嫌なんだ。ただ、戸田課長がどうしてもと頼むから今回だけ引き受ける事にした。だから呉々も私を失望させないでくれたまえ――」  彼がそう言って厳しい口調で話すと若干気持ちが緩んでいた俺も何だか背筋がピーンとなった。何だろうこの感じ……。このただならぬ圧力。このプレッシャー感。ヤバいなぁ。なんか、ヤバい人にあたったなぁ。  そこで気持ちが急に切り替わると、緊張した顔をしながら大きな声で返事をした。 「はい、任せて下さい! 俺は貴方に迷惑をかけないようにしっかりと教わるつもりです! 葛城先輩に決して迷惑をかけないよう毎日、一歩一歩と確実に精進して参りますっ!!」  椅子から立ち上がってビシッとお辞儀をすると頭を下げて『改めてよろしくお願い致します!』と挨拶をしてみせた。彼は目の前で、顔にかけていた眼鏡を指で押さえると、クールな表情で一言返事をした。 「――ああ、そうだな。期待している。キミの行動次第で営業マンとして使いものになるかならないかを見極めさせていただく。全ては結果次第だ。わかったな?」  そう言って淡々と無機質な感じのまま話すと、眼鏡の奥をキラリと光らせた。俺は初日でヤバい人に目をつけられるとプレッシャーと圧力が絡み合うような妙な緊張感に突如襲われた。そして、こうして彼との3ヶ月に及ぶ。地獄の新人研修が始まった。  その時の俺は、まだ彼に対して『恋』する文字さえなかった。むしろその逆で『苦手な人』だと少し感じていた――。

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