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新人研修。

 あの日、初日でさっそく撃沈したあと。次の日からあの人とマンツーマンで教育と指導を受けると思うと、晴れから曇り空の天気みたいな気分になった。その日の夕方、一人暮らしのアパートに帰ると両親から電話がかかってきた。両親は俺が今日から会社で働き始めた事に心配して、電話をかけてきた。俺は2人を心配させないように明るく返事をした。 「俺なら大丈夫だよ、2人とも安心して! バリバリ働くからさ!」  なんて調子の良い感じで両親と話し終わると、電話を切ってふと溜め息をついた。『ああ、最悪。明日から不安だなぁ』と呟くとその日は早く就寝した。そして、翌日の朝。初っぱなやらかした。  目覚まし時計が30分も遅れていた。それに気がついた時は眠気も一気に吹き飛んで慌ててベッドから飛び起きて支度した。そして、急いで玄関で靴を履くと家を飛び出して会社に出勤した。 「あ~ヤバイッ!! 寝坊した! これは完全にアウトだ~っ!!」  チャリを全速力で漕いで坂道を下ると、急いで駅に向かった。そして、駐輪場に自転車を停めて改札口に猛ダッシュすると、慌てながら前の電車に飛び乗った。  そのあと会社に着くなり、ボタンを連打すると急いでエレベーターの中に駆け込んだ。そして、自分が配属されている部署の階のボタンを押すと中で汗を拭いた。  入社した次の日に朝から遅刻するなんて、いい笑い者だと思うと、頭を抱えたまま深い溜め息をついた。そして、何よりあの人の顔が真っ先に頭に浮かんだ。 昨日は初日で最悪だったのに、朝から遅刻がバレたらやばいなと脳裏に過った。きっと、彼のことだから怒られるのを覚悟した。  エレベーターが10階で止まると、急いで営業部の扉を開けて中に入った。扉を開けると中は既に仕事モードの雰囲気だった。みんな慌ただしく、仕事を始めていた。俺はコソコソと鞄をえると息を潜めてタイムカードを押すなり。自分のデスクに忍び足で向かった。  ここで『あの人』に見つかったらヤバいなと、周りをキョロキョロしながら注意深く歩くと彼のデスクの方に視線を向けた。『あれ? 居ないぞ? もしかしてあの人、今日は休みか……?』と一瞬、思った。  やった~! 遅刻した事がバレないぞ!  ラッキー、セーフ!   なんて心の中で叫ぶと、小さくガッツポーズをした。すると背後から誰かに声をかけられて肩を掴まれた。 『おい!』  ギクッ!!  その瞬間、顔から全身にかけて血の気が一気に引くと、恐る恐る後ろを振り向いた。

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