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新人研修。

「柏木さんって葛城さんの事詳しいんですね?」 「んー? ああ、ここには同期で入って来ているからな。それにアイツとは飲み仲間だし。まあ、色々とな…――」 「そうなんですね。俺はてっきり……」 「なんだ。てっきりって何だよ?」 『おい!』  二人の間に突如、葛城が両腕を組んで仁王立ちして現れた。神出鬼没の如く登場すると、柏木は話しを切り上げてそそくさと退場しようとした。 「あ、ヤバッ……! 葛城、丁度良かった。阿川が腹壊してトイレに立て込もってたらしいぞ!? 遅刻じゃないからな、遅刻じゃ……! な、お前もそうだろ?」 たじろぐ萩原を前に、葛城は鋭い目で眼鏡をキラッと光らせながら威圧した。その威圧感に阿川も両手に鞄を抱えながら『ひぇ~!』っと呟いた。葛城は目を細めると彼に一言話した。 「――なるほど。腹を壊して鞄を抱えたままトイレに立て籠もってたのか。それなら仕方ないなぁ。実に結構だ。だがな。トイレに行く前に一言、私に挨拶をしてからにしなさい。キミがなかなか来ないから一人でミーティングルームで待たされたじゃないか。それに30分もとっくに過ぎてるぞ。今日は基礎知識とビジネスマナーについてキミに教えるのを忘れたのか?」 「ああ、ごめんなさい……! そうでしたね、そう言えば昨日帰りに言ってましたね、ハハハッ…!」 阿川は自分の頭をかきながら半笑いすると、その場凌ぎで誤魔化した。すると葛城がビシッと一言告げた。 「笑って誤魔化すのは良いが、次に私を待たせるような事がないようにしてくれたまえ、いいな!?」 「あ、はい。気をつけます…――」  彼が叱られてるのを目にすると、柏木はトバっちりを喰らう前にそそくさと、その場から離れて立ち去ろうとした。 「おい、柏木!」 「ん? ああ、すまん! オレそろそろ行かないと……!」  そう言って彼は自分のデスクに戻ると鞄を持って出掛けに行った。阿川は自分だけ取り残されると彼の圧力感に圧され固まって動けなくなった。 「チッ、逃げたか……! あいつ逃げ足だけは早いな…――」  軽く舌打ちをすると、葛城は彼の方をチラッと見て『行くぞ』と言ってそのまま阿川の首の襟を掴んで機嫌悪そうな顔で引き摺って歩いた。その場で固まって動けなくなった彼はそのまま一対一の恐怖のティーチングタイムへと導かれた。

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