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シキの陰謀(2)

LIVEが終わった。  終わったら挨拶に行きますんで、  少し待ってて頂けたら嬉しいです。 って言うメッセージをもらっていたので、 僕はしばらく、 またドリンクカウンターで煙草を吸っていた。 しばらくすると、メンバーが出てきた。 彼らはすぐに、女子ファンに囲まれた。 あーこの調子じゃあ、時間かかりそうだなー でも、ご招待してもらっちゃったし… お礼を言わないわけにもいかない。 それに… すごくよかったって…やっぱり伝えたい。 と、ほどなく…誰かが、僕に近寄ってきた。 「…カオルくん…だよね?」 「…!」 それは、シキだった。 「あっ…はい…あ、はじめまして…」 僕はペコっと頭を下げた。 「あ、厳密には初めてじゃないんです、対バンしたことがあります…」 僕は、少しもじもじした風に、言った。 シキは、そんな僕を見て… しばらく驚いた表情で、黙ってしまった。 (えっ…なに…何か思ってたのと違う…) (めっちゃ可愛いじゃん…) 気を取り直して、 若干戸惑いながら…シキは言った。 「あ…今日はホントに、ありがとう」 「こちらこそ、ご招待ありがとうございました!すーっごいよかったです。こんなバンド初めて見ました」 僕は真っ正直に、彼の目を見つめて言った。 シキは、更に戸惑った。 「あ…そんなに言ってくれて、ありがとう…」 「あ、僕なんかと喋ってて大丈夫なんですか?」 「え?」 「ファンの子とかに挨拶しなくていいの?」 「あ、ああ…今日は、俺推しが少ないから…全然大丈夫だよ」 「だったらよかった…」 (何なんだ…こいつ…めっちゃ良いヤツじゃん…) (とにかくめっちゃ可愛い…ヤバい…) 少し考えて…シキは、続けた。 「このあと時間ある? もしよかったらこのまま軽く飲み行かないか?」 「え、だって…打上げとかないんですか?」 「ウチのバンド、しょっちゅうLIVEやってるから…毎回、全員が参加しなくてもいい感じだからさ」 「…それなら、いいんですけど…」 「着替えて準備してくるから、もう少し待ってて」 「…わかりました」 僕もまた戸惑っていた。 でも、少し話した限りでは… そんな悪い人な感じはしなかった。 それに、あんなステージこなせる人と、 もっと、いろいろ話をしてみたい…と、 思ってしまったのだ。 楽屋で、シキはいそいそと着替えを終えた。 「俺、今日打上げ出ないわ」 「え、なんで?」 「なに、誰かいい子捕まえたんかー?」 他のメンバーが、面白がって訊いてきた。 実際、誰かがそうやって 早々に抜けていくパターンが多いバンドだった。 「うん…まあそんな感じ」 「マジかー」 「上手くやれよー」 「じゃ、そーいう事で、お先に」 「ほーい、お疲れー」 そんな感じで、シキは割とすぐに戻ってきた。 「お待たせー」 「早かったですねー大丈夫なんですか?」 「うん、大丈夫大丈夫…行こう」 僕は、シキの後をついて、店を出た。 ちなみに例のカメラを持った人物は、 そんな僕らの様子も見ていた。 店を出て、少し歩いた先の、 普通の居酒屋に、僕らは入った。 「こんな店でいいの?」 「全然大丈夫ですよー居酒屋大好きです」 そこそこ混んでいるその店の、 広いカウンターのいちばん奥の席に通された。 僕らは並んで座った。 「ハイボールください」 「あ、僕もそれで」 そして僕らは、改めて乾杯した。 「急にメッセージ送って、悪かったかな…」 「いえいえ、ありがたかったですよー」 「トキドル…新しいボーカル、評判良いよね」 「そうですかねー他の3人のおかげですよー」 (潰してやろうと思ってたのにな…) シキの妬心は、いつの間にか萎えていた。 「シキさんのバンド、面白いですね!」 「…そう?」 「ああいうスタイルのバンド、初めて観ました。すごく楽しかったです」 「…ありがとう…」 「演奏はロックなのに、フロントの4人が華やかで…見応えありましたよー」 「…」 「4人のキャラも、それぞれ違っていい感じだったし…それぞれファンがいっぱいいるんでしょうねー」 「…」 シキは、少し黙ってしまった。 実際のところ、シキ推しのファンは、 4人の中では少ない方だったのだ。 「…でもやっぱ真ん中の2人が人気なのかなー」 シキはドキッとした。 「でも、それって俺様なシキさんあってこその、あの2人が引き立てられてる感じがしました…」 「…」 「だって、歌はシキさんがいちばん上手だったし…」 シキはまた…ドキっとした。 (何こいつ…すげー分かってくれてんじゃん…) シキが黙ってしまったのを見て、 僕は慌てて言った。 「…あ、何かエラそうに色々…すいません」 「…いや、そんな言ってくれて嬉しいわ…」 (ヤバい…こいつマジで可愛い…) いろいろ話し込んでいくうちにも、 僕には、シキが悪い人には全然思えなかった。 実際シキの方も、 当初企んでいた、僕に対する敵対心は消えていた。 むしろ好意的な気持ちに変わっていた。 いやむしろ… 少し大き過ぎる、 歪んだ好意を抱き始めていた…

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