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シキの陰謀(1)

「なんなんだよ…これ」 TALKING DOLL関連のSNSを見ながら… 妬心に燃える彼は… 先代のボーカリストである、シキだった。 彼はTALKING DOLLを抜けたあと、 アイドル系のグループバンドに入っていた。 それなりに人気はあるものの、 やはりメンバー内での人気競争が激しく… No. 1への道のりは険しかった。 誰よりも『俺様』な性格のシキにとっては、 納得のいかない日々を、過ごしていたのだった。 TALKING DOLLのSNSは、 新しいボーカリストの話題で溢れていた。 「カオルかわいい」 「カオルすげー」 「二重人格」 「異世界転生」 そんな、新しいボーカルを讃えるコメントを見て シキは嫉妬心を抑える事ができなかった。 彼はそのSNSをたどって… 僕のアカウントに辿り着いた。 「ふーん…こいつかー」 彼はしばらく考えた。 そして、僕に直接メッセージを送ってきたのだ。 「…」 僕はそのメッセージを、自宅で開いた。  初めまして。突然のメッセージですいません。  TALKING DOLLでボーカルやってたシキです。 えええーなんで?!  すごい評判いいですねー  僕も安心してます。  でも、あすこのバンドのボーカルって何かと大変  ですよねー うんうん…とても大変だよー  もし、よかったら、今度こっそり飲み行きません?  僕も久しぶりに、彼らの近況聞きたいし  もしかしたら、何かアドバイスできることがあるか  もしれないし…  差し支えなければ、連絡お待ちしてます。 僕は正直、戸惑った。 だって、あの人たち… このシキさんて人のこと、良く思ってない節があるし でも、その文章を読む限り… そんな悪い人では無さそうだなーと、 僕は思ってしまった。 と、色々思い悩んでいるうちに、 追加のメッセージが届いた。  今度の金曜、池袋でLIVEやるので、  もしよかったら、そちらも遊びにに来てください。  言っといて頂ければ、御招待しますよー 池袋か… それなら近いし、行ってもいいな。 行って、会ってみてから判断してもいいし。 僕はそう考えて、返信した。  連絡ありがとうございます。  金曜、空いてるので、伺ってみようと思います。 実際、シキさんてのが、どんな人なのか… 僕は興味があった。 YouTubeでは何度も観たけど、 実際のLIVEで、どんな感じに歌うのかってのも とても気になった。 まーとりあえず、行ってみよう… 「よっしゃー」 僕からの返信を読んだシキは、 してやったりな表情を浮かべた。 「どんなヤツなんだろうな…出来ることなら、潰しておきたい所だけどな…」 まさか相手が、 そんな物騒な事を企んでいるとはつゆ知らず… 金曜日… 僕はその…シキさんのLIVEを観に、池袋に行った。 他の3人には、特に報告しなかった。 絶対、えーって言われるのは目に見えてたし。 会場の受付で名前を言うと、 ちゃんとドリンク代のみで入れた。 僕はドリンクカウンターでハイボールを注文して、 ドリンクコーナーで、煙草を吸いながら、 前のバンドの演奏が終わるのを待っていた。 (あれ…あの人…) 誰かが、そんな僕の姿を見つけた。 僕は知らない人物だった。 大きなカメラを担いだその人は、 ショウヤのカメラマン仲間だった。 ショウヤの撮った写真の中の、 僕の顔を覚えていたのだ。 (なんであの人がここに…?) ちょうど、演奏が終わって、 前のバンドのお客さんが、ゾロゾロと出てきた。 僕は煙草を揉み消して、 1人でそーっと、会場に入っていった。 (次って、確か前のボーカルの人がいるバンドだよな…わざわざそれ、観にきたんだろうか…) その人物は、僕の後ろ姿を見て、そう思った。 その会場は、 いつも僕らがやるライブハウスより、若干広かった。 中には、割とたくさんのお客さんがいた。 人気あるんだなー 僕はいちばん後ろの、 PA卓の前の壁にもたれて、始まりを待った。 そして、幕が上がった。 おおー バックは普通のバンド編成なのだが… フロントにボーカルが4人立っていた。 いちばん右がシキさんか… 割とロックな曲調に、 4人が、それなりに振りをつけながら、 交互に歌っていくスタイルだ。 確かにアイドルっぽい。 お客さんの女子達の盛り上がりっぷりも、 まさにアイドルのコンサートのようだった。 でも、曲は…しっかりロックだった。 聴いていても楽しいし… 見ていても飽きない。 へええー イマドキは、こんなジャンルのバンドがあるんだなー シキさんの、まさに俺様っぽいオーラもよかった。 さすが、あのバンドでフロントをやってた人だ。 僕はすっかり惹き込まれていた。 例の人物が、こっそり僕の横顔に向けて、 シャッターを切っていた事には、 これっぽっちも気付かなかった。

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