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奪還大作戦

「出来たー」 ハルトが言った。 「おおーいいじゃん」 「こーいう人いるよね」 「絶対ショウヤって分かんないわ」 「…」 シルクの持ってきた作業着を着せられ… 顔をいじられ、ウィッグと帽子を被され、 メガネもかけたショウヤは、 まるで別人のように変身していた。 「で、ほら…言ってみて」 「…水道局の方・か・ら・来ました。メーターの点検を行いましたので、サインをお願いしたいんですけど…」 ショウヤはちょっと恥ずかしそうに言った。 「あーちょっと棒読みだけどな…」 「ま、いいんじゃない?」 「よし、じゃあ行こう」 そんな、ちょっと楽しそうな感じで、 奪還大作戦が始まった。 彼らは連れ立って、シキの家に向かった。 「ここだよ」 先導していたサエゾウが、 コンビニの上の、彼のマンションを指さした。 「準備はいいな?」 カイが言った。 「ショウヤピンポンー」 「カイ開けるー」 「ショウヤとハルトで押さえ付けるー」 「俺とサエが侵入するー」 彼らは作戦手順を確認し合った。 何だかやっぱり、ちょっと楽しそうだ。 そして彼らは、エレベーターに乗った。 5階で降りると… 足音を忍ばせて、シキの部屋の前まで行った。   「もし、いなかったらどうしよう…」 ボソッとショウヤが呟いた。 「そん時はそん時だ」 カイが、小さい声で言った。 そして全員が配置についた。 ショウヤは、皆の顔を見て…小さく頷いた。 ピンポーン。 (ドキドキ…ドキドキ…) 「…はい」 中から声が聞こえた。 ショウヤは言った。 「…水道局の方・か・ら・来ました。メーターの点検を行いましたので、サインをお願いしたいんですけど…」 「んー…はい」 ガチャガチャ…と、鍵の開く音がした。 全員が息を呑んだ。 そしてついに…ドアが開いた。 そのドアノブを、勢いよくカイが引っ張った。 「…?!」 突然の事に何がなんだかわからない顔で、 シキが、そこに立っていた。 ショウヤとハルトは、彼の身体を押さえつけた。 「…何だよお前らっ」 シキは面食らって叫んだ。 と、その横を抜けて、 シルクとサエゾウが中に入った。 「お前ら…」 その2人を見て、シキはようやく、事態を悟った。 ドアを開ける係だったカイが、 2人に押さえつけられたシキの前に立った。 「…カイ…」 シキは、彼を睨みつけた。 「カオルを、返してもらいに来た」 カイは、何だかちょっとカッコ良さげに言った。 「…くそっ」 シキは、そう言い捨てて横を向いた。 「…!」 「…!!」 中に侵入したシルクとサエゾウは… その光景を見て、声を失った。 僕は裸のまま、目を閉じて… ぐったりとベッドに横たわっていた。 「…カオルっ」 サエゾウが駆け寄って、僕の身体を揺り起した。 シルクも僕に近寄ってきた。 「…」 サエゾウは、僕の身体を力強く抱きしめた。 「カオルーしっかりしてー」 僕は、静かに目を開けた… 立ちすくむ、シルクの姿が、僕の目に映った。 「…」 僕は、安堵感と… いたたまれない感が、入り混じったような目で、 彼を見た。 シルクは、優しそうに微笑んで、僕に言った。 「迎えに来た…遅くなってごめん」 「…っ」 僕の目から、涙が溢れた。 そして僕は、力無く、サエゾウの背中に手を回した。 ショウヤとハルトは、 シキを両側から押さえながら中に入ってきた。 カイも続いた。 「カオルさん!」 僕の姿を見て、ショウヤが叫んだ。 カイも、動揺を隠しきれない様子だった。 「まさかお前が、ホントにこんな事するとはな…」 そう言いながらカイは、 シキの胸ぐらを掴んだ。 シキは、ニヤッと笑って言った。 「すげー良い玩具だった…いっぱいやっちゃった」 「…」 シキは更に続けた。 「気持ち良さそうに、何回もイっちゃってたよー」 それを聞くとカイは、 勢いよく、シキの顔を殴りつけた。 「うわっ…」 ドサッ…っと、シキはその場に崩れ落ちた。 ハルトとショウヤも、僕に駆け寄った。 「カオルさん…ごめんなさい、僕がもっと早く皆んなに知らせていれば…」 ショウヤは泣いていた。 「…ショウヤ…さん?」 僕は、彼を見て…力無く訊いた。 「あ…はい」 「…知らない人かと…思った…」 僕は、小さく笑いながら、言った。 ショウヤは、その場に泣き崩れた。 ハルトが、 自分の着ていた丈の長いシャツを僕に着せた。 そして僕は… サエゾウとシルクに支えられて立ち上がった。 「俺も殴りたいな…」 サエゾウが言った。 「やめとけ」 シルクが静かに止めた。 そして彼らは僕を…部屋の外へ連れ出した。 バシッ…ドサッ… 部屋の方から、 カイがもう一発シキを殴ったであろう音が聞こえた。 エレベーターで下に下りると、 先に下りていたショウヤが、タクシーを止めていた。 「先に行ってください」 「さんきゅ」 サエゾウとシルクに挟まれて、 僕はタクシーに乗せられた。 「どうする?」 「とりあえず、ウチでいいか」 そして、ふと思い付いたシルクは、 窓を開けてショウヤに言った。 「カオルの荷物も回収しといて」 「あ、わかりました」 ショウヤは再び、 エレベーターに向かって走って行った。 タクシーに揺られながら… 僕は2人のぬくもりを感じていた。 「辛かったな、カオル…」 シルクが、僕の手を握りしめて言った。 彼の手は…少し震えていた。 「もー、すぐ言ってくれればよかったのに…」 サエゾウは、僕の顔を覗き込みながら言った。 「…ごめんなさい…」 僕は、下を向いた。 「…」 「…」 サエゾウは、優しく僕の頭を抱き寄せた。 シルクは、握りしめた手に、ギュッと力を込めた。 「奪還大作戦…大成功だな…」 「…なんですか、それ…」 僕は聞き返した。 「なんか…ちょっと楽しそう…ですね…」

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