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穏やかな時間(1)

とりあえず2人は、 僕を、シルクの家に連れて来た。 「病院行かなくて大丈夫かなー」 シルクが布団を敷いている間… サエゾウは、僕を椅子に座らせ… 心配そうに僕の顔を撫でた。 「どっか具合悪くない?」 「…大丈夫です」 僕は答えた。 ほとんど食べずに、ほぼ寝たきりだったので、 体力が落ちてる自覚は、とてもあったが… それ以外に不調を感じるところはなかった。 強いて言えば… 心が、痛かった。 僕は下を向いて…小さい声で言った。 「ごめんなさい…」 「なんで謝るんだよー」 「…だって…」 「横になった方がいいだろ…」 布団を敷き終わったシルクが、僕の肩に手を置いた。 「…」 もう、ビクッとならなかった。 僕はホッとした。 そして、シルクに促されるまま、布団に横になった。 「何か食べる?」 「…うん」 シルクは、キッチンに行き、冷蔵庫を開けた。 サエゾウは、僕の横に座った。 そして、僕の髪を撫でながら言った。 「お前が俺らに謝ることは、何にもないよー」 「…」 そして、笑いながら続けた。 「まあ強いて挙げるなら…すぐ報告してくんなかったことくらいだなー」 「…」 僕は両手で顔を覆った。 涙が溢れてきた。 ピンポーン… 遅れて、3人が戻ってきた。 「カオルさん」 ショウヤが駆け寄ってきた。 「ホントにごめんなさい。僕、カオルさんがシキさんのLIVEに行ったこと、知り合いから聞いてたんです」 「…」 「なのに…すぐに言わなかった…」 また、ショウヤは泣き出した。 「気にすんな、ショウヤ…」 「そうだよ、お前のせいじゃないよ」 「…ショウヤさんは、何にも悪くない…」 僕は言った。 「僕が…バカだったんです…うっかり、シキさんの誘いに乗ってしまった…」 「…」 「結果、トキドルの皆を、裏切ってしまった…」 「…」 「裏切ってなんかないよ」 カイが、キッパリ言った。 「シキとやって…トキドルのために、玩具ボーカル経験値を上げてきてくれたんだろ?」 「…」 「な、次のリハ…めっちゃ楽しみにしとくよ」 カイは、優しそうにニヤっと笑った。 「なんか、めっちゃ良い匂いしてきたー」 サエゾウが言いながら、 立ち上がってキッチンを覗きに行った。 「何作ってんのー?」 「鶏肉炊込み粥」 「なにそれ、美味そうー…俺らの分もある?」 「ちょっとならね」 「えーいっぱい食べたいー」 「じゃあお前ら用にはパスタでも作ってやるから、酒買ってこいよ」 「分かった、作戦大成功祝杯だなー」 そういった訳で… シルク以外の皆んなは、買い出しに出掛けて言った。 とりあえず、仕込みを終えたシルクが、 僕の横にやってきた。 そして、僕の顔を撫でながら…言った。 「…カオル…ホントに、生きててよかった」 「…大袈裟だよ…」 「いやマジで」 「ホントに…ごめんなさい…」 「謝ることないって、カイもサエも言ってただろ」 「…」 「…シキに、酷くされた?」 「…」 「あー俺らの方が、よっぽど酷いことしてっか」 「…ふふっ…そーかも…」 シルクは、そっと僕に顔を近付けてきた。 「もう…触っても大丈夫?」 「…うん、たぶん…」 そして彼は、 そっと…僕に、口付けた。 もう何ともなかった。 むしろ、よく知っているシルクのくちびるの感触に、 僕の心は深々と安らいでいった。 そしてシルクは…力強く僕を抱きしめた。 僕も、シルクの背中に両手を回した。 「…ホントに、よかった…」 「…」 彼の声は、震えていた。 気のせいかもしれないけど… シルクも泣いているように、思えた。 と、ガチャッと勢いよくドアが開き… 一同が帰ってきてしまった。 「あーシルク、ぬけがけズルいー」 サエゾウが叫んだ。 買ってきた荷物を放り投げて、 サエゾウはシルクを押しのけて、僕に抱きついた。 そして、元気に手を上げて言った。 「チューで我慢しますー」 いつものように挙手宣言して、 彼は、僕に口付けた。 ハルトとショウヤは、はいはいって感じで、 サエゾウが放り投げた荷物を拾って、 テーブルに置いた。 「俺にもさせて…」 サエゾウの後ろから、カイが言った。 「しょうがないなー」 言いながら、サエゾウは、僕から離れた。 カイは、僕の横に座り… 僕の髪を撫でながら言った。 「あいつのスマホの画像は、俺が削除しといた」 「…っ」 彼はまた、笑いながら続けた。 「むしろ、送って貰ってもよかったんだけどね」 「…」 僕は、たまらない表情で、カイを見上げた。 「だから…もうホントに、何にも1つも気にするな」 そう言ってカイは、 そっと僕に、口付けた。 ハルトとショウヤは、 買ってきた飲み物やつまみをテーブルに並べた。 「カオル、少し起きれそう?」 「…うん」 僕は、ゆっくり上体を起こした。 まだ少し、フラフラする感じはあったけど… 皆のおかげで、 僕は、心も身体も…とても軽くなっていた。

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