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カミングアウト?

次のリハの日… いつものように集まった僕らのその日の課題は、 レコーディングに向けての、 アレンジの見直しだった。 例えば…何となく、日替わりで叩いていた ドラムのおかずの中の、どれを使うか…とか ギターソロの間に、 バックにもう1本ギターを被せるか…とか、 コーラスを入れるか…とか… 細かい部分を、詰めていくために、 まずはそれぞれの曲のアレンジの確認をしていった。 まず、シルクのDead Ending… これは元々シンプルが売りの曲なので、 特に大きくイジる箇所は、無かったが… やはり、ギターを重ねようって事になった。 「第2のサエ…出現だな」 「黒いサエさんと、白いサエさんですね」 「あ、それいいね…そのキャラでいくわー」 そして、サエゾウの宵待ち… 「二胡入れたいんだよ、二胡〜」 サエゾウが力説した。 「ストリングスみたいな感じ?」 「いや、イメージでは、もっと寂しくコッソリ鳴ってるのがいいんだけどなー」 「なるほど…バックにほんのり、聞こえるか聞こえないかって感じですか?」 「そうそう…」 「良いと思います」 「あとね、悲鳴ってか嗚咽みたいのも入れたい…」 「どこに?」 「ギターソロん所…」 へえー サエさんのセンスって、面白いな… そして僕の、真夜中の庭… 「本物の時計の音から始まりたいです」 「お、いいと思うー」 「あと、後半のグチャグチャな所に、コードを鳴らす音があったらいいかと…」 「シンセ?」 「黒いサエさんでもいいです」 「わかった、ちょっと考えてみるー」 「あと、この曲…ちょっとピアノ欲しくない?」 シルクが言い出した。 「2番のAメロとかに…」 「あーいいね、欲しいね」 「ちなみに、俺の曲も…ピアノ欲しいんだよなー」 カイが言った。 神様の曲の話か… うん、確かにあの曲は、 全般何となくピアノが鳴ってて欲しい感じがする… 「ピアノか…」 「打ち込みで、何とかなるかな…」 「打ち込めは出来るけど…リフを作るのがなー」 「…」 実は、僕はまだ彼らに言っていない事があった。 何となく…暗礁に乗り上げた風に 考え込んでいる彼らに向かって、僕は切り出した。 「あの…僕、弾いてみましょうか…」 「えー!?」 「え、何、カオル弾けんのー?」 「マジか!」 3人様は、それはそれは驚いていた… 「…でも、録音に耐えられるレベルではないです」 「いーよいーよ、雰囲気だけやってくれたら、あとはそれ再現して打込むから」 「ちょっと弾いてみて…」 カイが、早速…店の電子ピアノの電源を入れた。 そして、スピーカーから音を出した。 「キーは何ですか?」 「Aマイナー」 僕は、とりあえずコードを追う感じで、 神様を弾いてみた。 「おおー」 「めっちゃイメージ伝わるー」 「コードだけでも全然いいな…」 コードを探りながらなので、たまにつっかえるし… テンポも、全然安定していなかったが… 最後の静かなAメロとか… ちょっと崩した感じで弾いたら、いいのかな… 僕は、ホントに何となーくな雰囲気で、 即興でやってみながらの… なんとか最後まで弾き終えた。 パチパチパチパチ… 拍手が起こった。 「すげーいいじゃん…」 「いやーよかった!」 あんな、つっかえてんのに? 「めっちゃ雰囲気掴んだ!やっぱ、実物の音があると全然違うわ」 サエゾウが、目をキラキラさせながら言った。 「ハイボールちょうだい」 そしてその勢いで、サエゾウが注文した。 「あ、俺もー」 「了解、カオルも?」 「あ、はい…」 カイは、カウンターに入って、 みんな分のハイボールを出してくれた。 軽く乾杯してから、シルクが言った。 「そーだ、真夜中も弾けるよね、自分の曲だし…」 サエゾウは、調子に乗って言った。 「弾き語ってー」 えええーっ 「じゃあ、マイクもオンにするね」 カイも言った。 僕は…小さい音で、少し確認してみてから… 何となく、弾き始めた。 そしてやっぱり、若干つっかえつっかえだったが… 何とか最後まで、弾き語り切った。 パチパチパチパチ… またも拍手が起こった。 僕はもう、早々にピアノから離れて、 カウンターに戻った。 「大したもんだねー」 「ソロでもやってけそうじゃん」 「お前にこんな奥義があったとは…」 いや、絶対…そんなレベルじゃないですけどねっ… 「鍵盤でバンドやったことあるの?」 「学生の頃は…キーボード率低いですからね、致し方なく…みたいな」 「もしかして、機材持ってる?」 「一応持ってますよ…安いヤツですけど」 「二胡の音入ってる??」 サエゾウが身を乗り出した。 「…どうだったかなー探してみます…」 「…てか、今からそれ持ってウチ来てー」 「ええーっ」 「せっかくイメージが湧いてるうちに、デモ音源作っちゃいたい」 「…」 サエさんの情熱…ってか、勢いは凄いなー 「…分かりました」 そんなわけで… 差し当たりの方向性はほぼ固まったので、 その日は、とりあえず解散となった。 僕はいったん家に戻って、機材を持って、 再び、サエゾウの家に行くことになってしまった。 別れ際に、シルクが言った。 「サエも、あれはあれで、スイッチ入るとめんどくさいから…まあ頑張って…」 「…」 よかったら、一緒に来てくれてもいいんだけどな… って思ったのに、 シルクはいつもの感じで、しれっと帰ってしまった。

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