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サエゾウとおでかけ
翌朝…だいぶ陽が高くなってから目が覚めた僕らは…いつまでもダラダラと、ベッドに横になっていた。
お互いに、自分のスマホを見たり…たまに起き上がって煙草を吸ったり…
たまにイチャイチャしたり…
いい加減…ダラダラにも飽きてきた頃に、サエゾウが言った。
「お前今日ヒマなのー?」
「はい…」
「絵ー見に行くー?」
「…はい??」
「絵ー描いてる知り合いの…展覧会みたいなやつー」
「…何ですか…それ?」
サエゾウは手を伸ばして…壁に掛かっていたウォールポケットから、1枚の葉書を取り出して…僕に渡した。
「これー」
「…」
それはどうやら…アマチュア画師達による作品展の…案内状だった。
実は絵を…描くのも観るのも…割と嫌いじゃなかった僕は、すぐに興味を惹かれた。
「面白そうですね…行ってみたいです」
「んじゃ、頑張って起きるー」
そう言ってサエゾウは、バサっとベッドから立ち上がって、洗面所に向かった。
僕もゆっくり起き上がった。
「…」
シルク…もう仕事行ったのかな…
ふと…うっかりそんな事を考えながら…僕もベッドから下りた。
「コーヒー飲みたいー」
わがままサエ様が、ほざいた。
「…どこにあるんですか…」
「棚のどっかにあるー」
僕は致し方なく、キッチンに行くと…食器棚を漁った。
奥の方に…だいぶ、放置されていた感満載な、インスタントコーヒーの瓶が見つかった。
…いつのだコレ?
思いながら、僕は蓋を開けた。
一応…コーヒーの匂いはした。
「ヤカンとかポットとか…ありますか?」
「んー無い…」
「…」
僕は致し方なく…鍋でお湯を沸かした。
マグカップ2つに、その怪しいコーヒーの粉を入れ…それを鍋で沸かしたお湯に溶かしての、コーヒーが入った。
「ここに置いときますね…」
「さんきゅー」
顔を洗ってスッキリした感じのサエゾウは、テーブルの前に座ると…早速そのコーヒーを飲んだ。
「タオルとか、その辺の使っていいからねー」
言われて、僕も洗面所に向かった。
ウチと同じように、雑然としたその洗面所で…顔を洗いながら、僕は思った。
シルクんちって…キレイだよな…
お母さん力が高いって言うか…
生活感が無いって言うか…
言われた通り、そこら辺にあるタオルで拭いて…僕は部屋に戻ると、サエゾウの向かい側に座った。
「カオルコーヒー美味い…」
「そうですか…?」
いつのか分かんないインスタントコーヒーを、
しかも鍋のお湯で淹れたヤツですけどね…
シルクんちの、ちゃんとしたセットとは大違いだ
僕は、ふふっと笑いながら、それを啜った。
一応…コーヒーの味はした。
「お腹空いたなー」
「…残念ですけど、卵しか残ってませんよ」
「どっかで食べようー」
「そうですね…」
僕らは身支度を整えて、出掛ける準備をした。
玄関で靴を履くと…サエゾウは、ドアノブに手をかけながら、僕の肩を抱いて、自分の方へ引き寄せた。
「…んっ…」
どちらからともなく…僕らはそっと、口付けた。
また、心地良い寒気に襲われた僕に…スッと離れた彼は言った。
「あんまり激しくすると…イっちゃうからなー」
「…っ」
僕は顔を赤らめた。
ふふっと笑ったサエゾウは、僕の頭をポンポンと叩いて…ドアを開けた。
そして僕らは、駅に向かって歩いていった。
サエさんと2人で出掛けるとか…初めてだな…
僕は何となくワクワクした。
最寄駅から電車に乗って…ほどなく僕らは、新幹線も出ていて、観光名所もいっぱいある、割と大きな駅で降りた。
滅多に電車に乗らない僕は、キョロキョロしてしまった。
「お上りさんかー」
そんな様子を見て、サエゾウは笑いながら言った。
「サエさんは、この辺詳しいんですか?」
「バイトしてた事あるからねー」
「そうなんですね…」
「シルくんも、こっから新幹線乗って仕事行ったりするんじゃないのー?」
「…」
へええーそうなんだ…
そしたら…もしかしたら、シルクも今日この駅を通ったのかもしれないな…
そんな事を考えながら、辺りを見回す僕を…サエゾウは、少しだけ複雑な表情で見ていた。
やがて僕らは駅を出て…大きな公園のある方へ歩いて行った。動物園もあるその公園は、家族連れやらで、そこそこ賑わっていた。
しばらく歩いた先に、大きな美術館があった。
「ここだなー」
僕らは、その建物の中に入った。
広くて複雑な造りの、その建物を巡り歩いて…僕らはようやく、その葉書にあるのと同じ名前の展示コーナーに辿り着いた。
「やっと着いたー」
そして僕らは、いくつも絵の並ぶ会場へ、入っていった。
アマチュア画師…おそらく趣味で絵を描いている人達の作品展なのだろう。ときどき、〇〇賞みたいな短冊が横に貼り付けられていた。
僕らは、端から丁寧に…それらを観ていった。
どれも、とても素晴らしく…個性的な作品だった。
いくら観ていても飽きなかった。
「…すごい…ですね…」
「うんー」
「音楽もですけど…絵ってのも、何て言うか…色々伝わってくるものがありますね…」
「自己表現ってのは、同じだよなー」
ひとつひとつ、時間をかけて観ながら…僕らはやがて、その…サエゾウに案内をくれたと言う、彼の知り合いの絵の所に来た。
「お、これかー」
「…っ」
それは…人形の絵だった。
美しい…というよりは、古びたマネキンのような人形が…中世の華やかなドレスを見に纏い、哀し気に微笑んでいる絵だった。
僕は、その絵に…途轍もなく引き込まれた。
そんな僕の横顔を見て、サエゾウが言った。
「あーそっか…お前こーいうの好きなんだっけー」
「…はい」
そのとき…僕の中に、ある景色が浮かび上がった。
それはまるで湧き出る清水のように…メロディーとなって、僕の頭の中に溢れかえっていった。
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