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下見(6)

そのまますっかり眠ってしまった僕は…翌日早朝に、ようやく目が覚めた。 「…」 僕はゆっくり身体を起こして、辺りを見回した。 隣のベッドに…ハルトとショウヤが、並んで寝ていた。 特に、寄り添う感じでもなく…それぞれ好き勝手の方を向いて寝ている2人の姿をを見て…僕は思わずふふっと笑った。 僕は、ベッドから出ると…彼らを起こさないように、静かに階段を下りた。 ダイニングもリビングも、まるで昨夜の狂宴がウソのように、きれいに片付いていた。 僕はキッチンに行って、冷蔵庫から、昨日買っておいたペットボトルのお茶を取り出して、ゴクゴクと飲んだ。 それから僕は、玄関に回ると… 置いてあったサンダルを履いて、外に出てみた。 「…っ」 眩しい朝日が木漏れ日となって、チラチラと辺りを照らしていた。 どこからともなく、小鳥のさえずりが聞こえた。 いわゆる山の中の…緑に囲まれた早朝の、清々しい空気が…たまらなく気持ち良かった。 ゆっくり流れる爽やかな空間に浸りながら… 僕はその木漏れ日の下を、辺りを見回しながら…のんびり歩いていった。 カシャッ… とても聞き覚えのある音が…後ろから聞こえた。 僕は振り向いて、その音の主に言った。 「…おはようございます…」 「もう…何て格好で出歩いてるんですか…」 「…」 あー 誰もいないと思って、油断してた… 僕はシャツに下着だけっていう…ちょっと恥ずかしい格好だった。 ま、シルクんちのベランダの所で、煙草吸うときよりはマシだと思うけど… 「撮らずにはいられないじゃないですか…」 言いながらショウヤは…僕に向かってカメラを構えた。 カシャッ… 「すごく、清々しい朝ですね…」 とても爽やかな気分だった僕は、気にせず、むしろ堂々と…カメラに向かって微笑んだ。 「…!!」 カシャカシャッ… ショウヤは、そんな僕の表情を…連写し続けた。 それから僕は、両手を額にあてて… 晴れ晴れとした清爽な気持ちで空を見上げた。 「…カオル…さん…」 ショウヤは、思わず…スッとカメラを下ろした。 そんな僕の様子に、若干の脅威さえ感じながら…彼は静かに微笑んだ。 (まさか…こんな所で出現するなんて…) 神々しいほどの、凛としたオーラを振り撒き…何事にも動じる事なく、自分の世界の中で、自分の思うままに立ち振舞う「銀色のカオル」を… ショウヤは、自分の目にしっかりと焼き付けた。 やがて…散策にも飽きてきた僕は、ボーッと立ちすくんでいるショウヤに近寄っていった。 「誘ってくれて、ありがとうございました」 「…」 「マイナスイオン…いっぱい浴びれた気がします…」 「…」 ショウヤは…たまらないような表情で、僕に向かって手を伸ばした。 「…?」 何だろうと思いながら、僕はその手をそっと握った。 「…自分で…気付いてました?」 「…何が?」 「…今…銀色のカオルさんに、なってました」 「えええー!?」 …そんなの、全っ然…わかんなかったよ… 俯き加減で、ショウヤは続けた。 「すごく…きれいでした…」 「…っ」 そして彼は顔を上げると…一点に僕の目を見つめた。 「…」 思わず吸い寄せられるように… 僕らはどちらからともなく…そっと口付け合った。 目を閉じて…心地良くショウヤのくちびるの感触に浸っている僕の耳に…爽やかな小鳥のさえずりが響いた。 胸に込み上げる…寒気に似た、ときめきを感じながら…僕はまるで、雲の上にいるような気持ちになった。 ゆっくりと…名残惜しそうに口を離れて…彼は言った。 「錯覚ですよ…」 「…」 「僕にとっては…現実ですけどね…」 「…?」 僕には、ショウヤの言ってる意味が分からなかった。 「今は…分かんないかもしれませんけど…」 「…はい、分かりません」 素直にそう答えた僕に向かって、彼は続けた。 「いずれ…本番のときに…分かっちゃうと思います」 そう言うと…ショウヤは少し寂しそうに俯いた。 「戻りましょうか」 「…そうですね」 そして僕らは、建物の中に入った。 「ハルトさん…まだ寝てんのかな…」 何となく呟いた僕に… ショウヤは少しだけ含みを持たせた感じに行った。 「カオルさん…起こしてきてください」 「わかりました…」 「ごゆっくり…」 そう言って、ショウヤは僕を見送った。 「…?」 何がごゆっくりなのか…意味がわからないまま…僕は階段を上っていった。 ハルトが、まだスースー寝ているベッドの傍に、僕は立った。 「…ハルトさん」 「…」 僕は…そっと彼の肩に手を置いた。 「…んー」 モゾモゾと動きながら、ハルトはゆっくり目を開けると…僕の姿を確認した。 「おはよう…ございます…」 「…」 と、ハルトは腕を伸ばして、僕の腕を掴むと…勢いよく自分の方に引き寄せた。 「…わっ」 僕はドサっと…ハルトの上に覆い被さってしまった。 「…」 そのままハルトは、僕の身体をギューッと抱きしめながら…再び目を閉じてしまった。 「…ハ、ハルトさん…」 僕は、ちょっと困った感じで言った。 ハルトは…とても幸せそうに微笑みながら、ゆっくり目を開けた。 「…」 僕の身体をそっと横に下ろすと…彼は、僕の首の下に腕を差し込んで、僕の頭を自分の方に抱き寄せた。 そして僕のくちびるを探るように…口付けた。 「…ん」 僕はなすがままに…彼のくちびるを受入れた。 しばらくして、そっと口を離れたハルトは… 僕の目を見つめながら、囁くように言った。 「…初めて知った…」 「…え?」 「…こんなに幸せなんだな…」 「…」 「起きたら…カオルがいるって…」 「…っ」 ああ… ごゆっくりって…そういうことか… 思いながら僕は… 今度はハルトに吸い寄せられるように…口付けた。

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