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光鬱反省会(1)

ある意味、親睦も兼ねた楽しい下見旅行を終えて…僕らは地元に帰ってきた。 「本当にありがとうございました」 「こちらこそ…一緒に来てくれてありがとうございました」 「本番の日の詳細、決めたら連絡します」 「よろしくお願いします」 そして、僕は車から降りた。 2人は車を駐車場に置いてから、もう少し打合せをするらしい。 ショウヤもハルトも… 本当に、トキドルのメンバーなんだな… 僕はしみじみそう思った。 2人を乗せた車を見送って、僕は自分の家に戻った。 そしてスマホを開いた。 「…!」 アヤメさんからLINEが来ていた。  急だけど、今日の夕方とか空いてる?  例の反省会 今日かー ま、ひと眠りすれば大丈夫かな… 僕は少し考えて、返信した。  大丈夫です すぐに既読がついた。  そしたら、また、こっちでいい?  17時くらい…どう?  了解です そう返信をすると、僕はスマホをポンと投げて…布団に寝転がった。 「ふぅー」 楽しかったな… やっぱり…車で遠出するのはいいな… 僕は目を閉じて…さっきまでの色々を思い返した。 景色も良かったし…すごく素敵な別荘だった 今度は皆で行くのか… それもすごく楽しみだ… サエさんとか、すごく張り切りそうだよなー シルクと一緒に… あのキッチンを使うのも楽しみだな… 「…」 そして僕は…再びスマホを手に取った。  下見行ってきた  すごく素敵なキッチンあった! 僕は、それを…シルクに送信した。 ほどなく既読がつくと同時に返信がきた。  おかえりおつかれ 「…っ」 それを読んだ僕は…何とも言えない、たまらない気持ちに包まれながら…スマホを手に握ったまま、目を閉じた。 そしてそのまま眠り込んでしまった。 夕方、のそのそと起き出した僕は、シャワーを浴びて支度をして…アヤメの住んでる駅へと向かった。 駅に着いて、改札を抜けると…すぐ分かる場所に、アヤメが立っていた。 「すいません、お待たせしました」 「全然…今来たとこ…じゃ、行こうか」 アヤメは、シュッと歩き出した。 「せっかくの打上げだから…店を予約しておいた」 「ええっ…そうなんですか!?」 駅からすぐ近くの、ビルの2階にある…小洒落たイタリアンの店に、彼は入っていった。 「ここなんだけど…いい?」 「…とても良いです!」 目をキラキラさせながら、そう答えた僕を見て、彼は嬉しそうに笑った。 そして僕らは、店の奥の窓際のテーブルに座った。 「今日は飲み放題だけど…最初はハイボール?」 「あ、はい…そうですね…」 アヤメがすぐに注文してくれた。 とりあえず…僕らはハイボールで乾杯した。 「先日はありがとうございました」 「こちらこそ」 ほぼ同時に…サラダとカプレーゼ…あとはバケットにペーストが添えられたものが出てきた。 「うわあー美味しそうですねー」 「一応お任せコースどけど…何か他に食べたいものあったらどんどん注文してね」 「いただきます!」 帰って来てから、結局何も食べていなかった僕は…遠慮なく、それらをひと通りバクバク食べると…メニュー表も広げて見た。 創作イタリアンのそのお店は、ショウヤの行きつけには敵わないが、それなりに面白そうなメニューが色々と並んでいた。 「…」 どれも美味しそうで迷っちゃうなー とりあえずお任せで出てくるんなら、それの具合を見てからでも良いかな… 「……」 あ、でも…違う味のサラダも食べたいな… この美味しいバケットは、おかわり出来るんだろうか…あ、でももしかしたら後でピザが出るかもしれないな… 散々熟考した挙句に…とりあえず僕は、メニューをパタンと閉じると…その間放置してしまったアヤメの顔を、申し訳なさそうに見上げた。 「すいません…とりあえず大丈夫です…」 「あはははっ…そうだな、カオルがいっぱい食べると思って…盛りだくさんのコースを頼んどいたから」 「…」 「足りなかったら追加しよう…」 「はい…」 その後、揚げ物とアヒージョが出てきた。  我慢出来なくて、バケットを追加してしまった… それらをつまみながら…折角飲み放題なので、ワインも頼んだりして…僕らは順調に飲み進んでいった。 アヤメが、改まったように言った。 「こないだのトキドル…すごかったねー」 「…そうですか?」 「前回も進化したと思ったけど…こないだは更に進化してたよな…」 「そう言って頂けると嬉しいです…」 「なんであんなに…景色が見えるの?」 「…見えました?」 「見えたし…連れて行かれそうになったし…」 「…あははっ…そうですか…」 僕は、ホッとしたように笑った。 「なんて言うか…お前が、別の世界の人に見えたわ」 アヤメは、グラスのワインを飲み干しながら…少し悔しそうに続けた。 「俺と2人のときと…全然違うのなー」 「…」 「まあ…しょうがないよな…俺らはまだ、始めたばっかりだし…」 「…」 そんなアヤメの言葉に…僕は思った。 もっと回数を重ねて…もっとこの人と深く交わる経験が増えたら… この人の曲からも歌が聞こえてくるようになったり…この人の曲の景色を客席に見せたり… 出来るように…なるんだろうか…

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