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光鬱反省会(2)
それから、鶏肉のグリルと小盛りのビーフシチュー…パスタとピザも出た。
やっぱり、違うサラダを追加してしまった。
ワインも、赤白飲み進めて…最後のデザートが出された頃には、お腹もいっぱいだし、相当酔っ払ってしまった。
「ごちそうさまでしたーすごく美味しかったです!」
「足りた?」
「お腹いっぱいですー」
「だったらよかった…」
満足そうにおなかをさする僕を見て…
アヤメも満足そうだった。
「明日は何かある?」
「いえ…バイトは明後日からです」
「だったら、この後うちでDVD観ながらの反省会の続きでいい?」
「…はい」
断る理由は無かった。
わざわざここまで来たんだから…その流れになるのはもちろん想定内だった。
僕らは店を出ると…彼の家に向かった。
途中のコンビニで飲み物を買って…
ほどなく僕らはアヤメの家に着いた。
「お邪魔します…」
「はい、どうぞー」
部屋の電気を点けると…彼はすぐにテレビのスイッチを入れて、DVDをセッティングした。
「これ…冷蔵庫に入れていいですか?」
「あ、うん…」
既に何度も来ていた僕は…勝手知ったる感じで、キッチンに行って、買ってきた飲み物を冷蔵庫にしまった。
ハイボール缶を2本だけ持って、僕はテレビの前のテーブルに置くと、アヤメの隣に座った。
「サンキュー」
そして僕らは小さく乾杯した。
画面から…先日のLIVEの映像が流れてきた。
「PCからの音源でも…音響次第ですごく迫力が出るんだなーって、しみじみ思いました」
SEからの、割と激しいドラムが入った所で、僕は呟くように言った。
「イマドキは色々進化してるからね…」
アヤメは、煙草に火を付けながら言った。
そりゃあ間違いなく、生バンドの方が良いに越した事はないのだが…
それでも、映像を見る限りでは…音的に、これっぽっちも寂しい感じはしなかった。
いつもは4人で埋まるステージも…対照的な衣装の2人が、所狭しと動いている事で、見た目的にも割と華やかに見えた。
まあ…アヤメさんだしな…
おそらく…例えひとりでも、めっちゃオーラ出しちゃうんだろうなー
「悪くないよね」
「…はい…」
「まあ…こないだのトキドルには敵わないけどさ」
「…」
「バンドじゃなくても…ココまで演れるってのが分かってよかったわ…」
「そうですね…コレはコレで…1つのジャンルとして、十分に成り立つと思います」
「ボーカルがお前じゃ無かったら…こうはいかないけどな…」
アヤメは、僕の頭をポンと叩きながら続けた。
「…」
そう言ってもらえて…僕は素直に嬉しかった。
それでもやっぱり、反省点はいっぱいだった。
「とりあえず…ココまでの曲でCD作りたいと思ってる」
「…はい」
またレコーディングかー
僕は、あのトキドルのヤバいレコーディング風景を思い出しながら…心の中で溜息をついた。
「元々オケがあるからね…歌以外は、全部ウチで録音出来るから…そんなに時間は取られないと思うよ」
「あ、なるほど…」
そうか…LIVEで使ってる音源に、アヤメさんのギターを入れれば、演奏隊はそれでいいのか!
「こっち完成させたら、また連絡するから…それから歌録りの日程決めよう」
「…わかりました」
「ちなみに、そちらさんの予定は…どんな感じ?」
アヤメは、探りを入れるような口調で訊いた。
「えーと…来月半ばに、最後のPV撮影があって…そのすぐ後に、地元のイベントですね」
「え、まだPV撮るの?」
「はい…まだあと1曲残ってるんです」
「そうなのか…」
「その後は…ちょっと空いて…確かもう1本か2本…LIVE決まってた気がします」
「そうか…じゃあ、その…次のイベント終わったくらいを目安に、歌が録れるといいな」
「…そうですね…」
「そしたら、俺らの次のLIVEのときまでにCD売れるからな…」
「…」
物販でCD売るとか…何か、ちゃんとしたミュージシャンみたいでカッコいいよなー
トキドルは、今のところ写真集しか無いし…
「ま、イマドキは…CDよりYouTubeの方がいいのかもしらんけどな…」
「…」
「かと言って…PV撮ろうなんてったら、締め殺されるだろうからな…あの、いつもカメラ持ってるオタクくんに」
「あはははっ…」
よくわかってらっしゃるー
「…でも、ショウヤさんは…全力で協力するって、言ってた気がします」
「…まさかー」
「いや、ホントです…って言うか、実はあの人が…誰よりいちばん…トキドルの事をわかってるんですよ…」
「…そう…なの?」
「本人が分かってない事すら、わかっちゃうんですよ、あの人!」
「…へ、へええー」
僕は思わず前のめり気味で続けた。
「大人しそうに見えて…あの人、ホントにヤバいんです!酔っ払うとすぐ語り出すし…変なスイッチ入ると二次元の人になるし…面倒臭い人なんですよー」
「…」
「しかも…僕の恥ずかしい画像、いっぱい握ってるから、下手に逆らえないし…」
「…」
止めどなく溢れ出る、僕のショウヤへの愚痴語りを…アヤメは黙って、微笑みながら相槌を打って聞いてくれていた。
「…ホンッとに、面倒臭いんです!」
いつの間にか大きくなった自分の声に…
僕は、ハッとして…ギュッと口をつぐんだ。
「…」
そして、そっとアヤメの目を…見上げた。
「…っ」
彼は、可笑しくてたまらないような表情で…声を殺しながら、肩を震わせて笑っていた。
あーしまった…
アヤメには、その話の中のショウヤより…
今の僕の方が、よっぽど面倒臭い酔っ払いに思えてるに、違いなかった。
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