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レコ発LIVE(5)

ハルトの手を借りて、無事着替えも終え、メイクも落とした僕は…彼らと一緒に楽屋を出た。 ドリンクコーナーは、まだお客さんやメンバーでざわついていた。 そんな中で…アヤメがいるであろう、光鬱の物販コーナーと思われる場所は、ひときわ人だかりが出来ていた。 「挨拶…しないと」 ボソッと呟く僕に向かって、ハルトがキッパリ言った。 「そういうのいいから、早く連れて帰ってくれって言われてるから、大丈夫」 「…でも」 「僕が言ってきます、先に出ててください」 そう言ってショウヤは、スッと離れて、その人だかりに向かっていった。 「…」 「ショウヤに任せて、行こう」 ハルトは、僕の腕を掴むと、半ば強引に僕を出口へと引っ張っていった。 出口の外で…3人様が待ち構えていた。 「お疲れ」 「ふんー」 いつものように、穏やかな表情のカイと、若干プンプンした様子のサエゾウ… 「…」 そして僕は…誰より気になるもう1人の表情を、恐る恐る覗き込んだ。 「…お疲れ…」 「……」 怒っているでも、笑っているでもない…その表情から、僕はシルクの真意を測り兼ねた。 「ショウヤは?」 「カオルの代わりにアヤメさんに挨拶してる」 「お前が行かなくてよかったの?」 シルクが、少し怒ったような顔で僕に言った。 「あ…えっと…」 「俺が無理やり連れてきたんだ…そーいうのいいから連れて帰れって言われてたから」 口籠る僕を庇うように、ハルトが言ってくれた。 「そう…」 シルクはそれを聞いて、クルッと振り向いた。 「…」 それを見て…僕は少し悲しい気持ちになってしまった。 「シルくんが怒ってるー」 茶化すようにサエゾウが言った。 「怒ってねーよ」 「カオルが泣きそうんなってるー」 「サエが怒ってるからだろ」 「だ、大丈夫です…元々、怒られるのは覚悟の上ですから…」 僕は必死に強がって言った。 ハルトは、そんな僕の肩を…ギュッと抱きしめてくれていた。 「それでも…怒られてもいいです…今日は、精一杯やりました…」 言いながら… 僕の目から、ポロポロと涙が溢れてしまった。 その日の色々の緊張が…この人たちの前で、完全に緩んでしまったのだ。 「…」 「そうだな、頑張ってたよな…」 カイは続けた。 「サエはともかく…仙人気取りのシルクまでもが、取り乱すくらい、カッコよかったって事だよな」 「…っ」 「シルくん、だっさー」 「うるせーよ」 シルクは、顔を赤くしながら、コソコソと煙草に火を付けた。 「あーあー」 いつの間にか、店から出てきていたショウヤは、少し離れたところから、僕らの様子を見て…ふふっと笑いながら溜息をついた。 「皆、もっと素直になったらいいのに…」 彼は、少し大袈裟なくらいに声を張り上げて続けた。 「今日のカオルさん…めちゃくちゃカッコよかったです!」 「…」 「これが、僕らのカオルさんなんだって思ったら…ものすごく誇らしかったですよ」 ショウヤにそんな風に言われて…僕は更に泣き崩れてしまった。 「…ありがとう…ございます…ショウヤさん…」 「うんうんー」 「ホントにお疲れ…」 「…」 憎まれ口を叩きながらも、何だかんだで受け入れてくれる彼らに囲まれて…僕は号泣しながら、両手で顔を覆った。 それから僕らは、電車で地元の駅に戻った。 「とりあえず飲み行こー」 「そうだな」 「カオルさん、大丈夫ですか?」 「はい…とても行きたいです」 そして、いわゆるフツーのチェーン店居酒屋で…僕らはいつものように、ハイボールとビールとレモンサワーで乾杯した。 「お腹空いたー」 「だろうな…」 「カオルもお腹空いてるでしょ、いっぱい頼んで」 「あ、はい…」 「唐揚げ2つと…ポテトフライ2つ…あ、餃子も2ついっとこうー」 注文用のタッチパネルを占領したサエゾウは、次々とポチポチしていった。 「串盛り頼んで」 「刺盛りも…」 「オッケー…串10本盛りと…刺身は5種盛りー」 「カオルさんは何か食べたい物ないんですか?」 「あ、えーと…」 メニューが見たいんだけどな 「焼きそばとカルボナーラ、どっちがいいー?」 「…カルボですかね」 「カルボ…は1つでいっかー」 「あの…サエさん」 「んー何ー?」 「僕にもそれ、見せてもらえませんか?」 「えー疲れてるお前のために、俺様がピックアップしてやるから、好きな方選んでー」 「…」 若干、不服そうな表情の僕を見て…シルクが、クスッと笑いながら口を挟んでくれた。 「グラタンとかドリアとか無いのか?」 「あーチーズ系ね…」 サエゾウは、タッチパネルを手放そうとはしなかった。 あくまで自分で仕切りたいのか 子どもか? 「ピザいこう、マルゲリータとツナコーンピザ…カオルどっちがいいー?」 僕は、諦めた表情で…溜息をつきながら答えた。 「じゃあ…マルゲリータで…」 「あっ…和風じゃこピザってのもあるーこっちがいいな…じゃこピザ1つ…っと」 「……」 選ぶ権限も無いじゃん ま、いいんだけど

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