398 / 398
レコ発LIVE(5)
ハルトの手を借りて、無事着替えも終え、メイクも落とした僕は…彼らと一緒に楽屋を出た。
ドリンクコーナーは、まだお客さんやメンバーでざわついていた。
そんな中で…アヤメがいるであろう、光鬱の物販コーナーと思われる場所は、ひときわ人だかりが出来ていた。
「挨拶…しないと」
ボソッと呟く僕に向かって、ハルトがキッパリ言った。
「そういうのいいから、早く連れて帰ってくれって言われてるから、大丈夫」
「…でも」
「僕が言ってきます、先に出ててください」
そう言ってショウヤは、スッと離れて、その人だかりに向かっていった。
「…」
「ショウヤに任せて、行こう」
ハルトは、僕の腕を掴むと、半ば強引に僕を出口へと引っ張っていった。
出口の外で…3人様が待ち構えていた。
「お疲れ」
「ふんー」
いつものように、穏やかな表情のカイと、若干プンプンした様子のサエゾウ…
「…」
そして僕は…誰より気になるもう1人の表情を、恐る恐る覗き込んだ。
「…お疲れ…」
「……」
怒っているでも、笑っているでもない…その表情から、僕はシルクの真意を測り兼ねた。
「ショウヤは?」
「カオルの代わりにアヤメさんに挨拶してる」
「お前が行かなくてよかったの?」
シルクが、少し怒ったような顔で僕に言った。
「あ…えっと…」
「俺が無理やり連れてきたんだ…そーいうのいいから連れて帰れって言われてたから」
口籠る僕を庇うように、ハルトが言ってくれた。
「そう…」
シルクはそれを聞いて、クルッと振り向いた。
「…」
それを見て…僕は少し悲しい気持ちになってしまった。
「シルくんが怒ってるー」
茶化すようにサエゾウが言った。
「怒ってねーよ」
「カオルが泣きそうんなってるー」
「サエが怒ってるからだろ」
「だ、大丈夫です…元々、怒られるのは覚悟の上ですから…」
僕は必死に強がって言った。
ハルトは、そんな僕の肩を…ギュッと抱きしめてくれていた。
「それでも…怒られてもいいです…今日は、精一杯やりました…」
言いながら…
僕の目から、ポロポロと涙が溢れてしまった。
その日の色々の緊張が…この人たちの前で、完全に緩んでしまったのだ。
「…」
「そうだな、頑張ってたよな…」
カイは続けた。
「サエはともかく…仙人気取りのシルクまでもが、取り乱すくらい、カッコよかったって事だよな」
「…っ」
「シルくん、だっさー」
「うるせーよ」
シルクは、顔を赤くしながら、コソコソと煙草に火を付けた。
「あーあー」
いつの間にか、店から出てきていたショウヤは、少し離れたところから、僕らの様子を見て…ふふっと笑いながら溜息をついた。
「皆、もっと素直になったらいいのに…」
彼は、少し大袈裟なくらいに声を張り上げて続けた。
「今日のカオルさん…めちゃくちゃカッコよかったです!」
「…」
「これが、僕らのカオルさんなんだって思ったら…ものすごく誇らしかったですよ」
ショウヤにそんな風に言われて…僕は更に泣き崩れてしまった。
「…ありがとう…ございます…ショウヤさん…」
「うんうんー」
「ホントにお疲れ…」
「…」
憎まれ口を叩きながらも、何だかんだで受け入れてくれる彼らに囲まれて…僕は号泣しながら、両手で顔を覆った。
それから僕らは、電車で地元の駅に戻った。
「とりあえず飲み行こー」
「そうだな」
「カオルさん、大丈夫ですか?」
「はい…とても行きたいです」
そして、いわゆるフツーのチェーン店居酒屋で…僕らはいつものように、ハイボールとビールとレモンサワーで乾杯した。
「お腹空いたー」
「だろうな…」
「カオルもお腹空いてるでしょ、いっぱい頼んで」
「あ、はい…」
「唐揚げ2つと…ポテトフライ2つ…あ、餃子も2ついっとこうー」
注文用のタッチパネルを占領したサエゾウは、次々とポチポチしていった。
「串盛り頼んで」
「刺盛りも…」
「オッケー…串10本盛りと…刺身は5種盛りー」
「カオルさんは何か食べたい物ないんですか?」
「あ、えーと…」
メニューが見たいんだけどな
「焼きそばとカルボナーラ、どっちがいいー?」
「…カルボですかね」
「カルボ…は1つでいっかー」
「あの…サエさん」
「んー何ー?」
「僕にもそれ、見せてもらえませんか?」
「えー疲れてるお前のために、俺様がピックアップしてやるから、好きな方選んでー」
「…」
若干、不服そうな表情の僕を見て…シルクが、クスッと笑いながら口を挟んでくれた。
「グラタンとかドリアとか無いのか?」
「あーチーズ系ね…」
サエゾウは、タッチパネルを手放そうとはしなかった。
あくまで自分で仕切りたいのか
子どもか?
「ピザいこう、マルゲリータとツナコーンピザ…カオルどっちがいいー?」
僕は、諦めた表情で…溜息をつきながら答えた。
「じゃあ…マルゲリータで…」
「あっ…和風じゃこピザってのもあるーこっちがいいな…じゃこピザ1つ…っと」
「……」
選ぶ権限も無いじゃん
ま、いいんだけど
ともだちにシェアしよう!