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番外編 初出勤のあとで(R18)

 これは透が就職して、初出勤した日の夜のお話。  温かい体温に、透はうたた寝してしまったことに気付いた。  目を開けると部屋の照明が眩しい。リビングのソファーで、隣に座る伸也にもたれかかっていた身体を起こすと、盛大な欠伸が出る。 「ん……あれ、オレ寝ちゃってた?」 「うん起きた? 疲れてるならもう休もうか」  伸也は透の髪の毛を優しく梳いた。透は彼の言葉に、今日は初出勤だったからかな、と呟きながら頷く。 「しんちゃん、一緒に寝よ?」  テレビで動画を観ていた伸也を寝室に誘うと、彼は分かりやすく狼狽えた。一応、透の部屋とベッドは別にあるから、その意味を察したのだろう。疲れているからとかそれ以前に、透は伸也の肌を感じたくなったのだ。  伸也と初めて触れ合ってから、そういう機会は何度かあった。けれど伸也はいつまでも照れていて、まだ身体を繋げるまでに至っていない。透はそろそろしてもいいでしょ、と彼に抱きつく。 「……触り合いで、いいなら……」 「……分かった」  それでもやっぱりそんなことを言う伸也に、透は聞き分けよく頷いた。ソファーから立ち上がり、伸也の手を取り引っ張ると、テレビを消して立ち上がった伸也の首に腕を回し、柔らかい唇にそっと自分のを重ねる。 「……ふふ、耳赤いよ?」 「からかうなよ……」  可愛いと笑う透から目線を外す伸也。それでも、透の腰に腕を回してくれるから、嫌がってはいないようだ。 「あ」  そして透の下腹辺りに、確かな形を保ったモノの感触があり、透は声を上げる。透はわざとそこに腰を押し付けるようにすると、伸也は小さく息を詰めた。 「しんちゃん……すぐこうなっちゃうね?」 「……」  透と付き合うまでにも、そういう経験はほぼないと言っていた伸也は、恥ずかしそうに目を伏せる。けれど透も、そんな伸也の姿を見て胸がきゅんと切なくなり、じわりと下半身に熱が集まるのを感じるのだ。  二人で伸也の寝室に入り、ベッドの端に座ってキスをする。ここまでは伸也からもできるようになった。舌を絡ませる深いキスも、透が教えた通りに、まだ少し遠慮がちだけどやってくれる。 「しんちゃん、上手だよ……」  吐息混じりにそう呟けば、彼は少し安堵したようによかった、とそっと息を吐いた。透はそんな伸也の耳に、首筋に、胸にと触れていく。──どこも伸也の感じる場所だ。 「……っ」 「しんちゃん、今度はオレが好きな場所、触って?」  息を詰めたあと、はあ、と力を抜く伸也に、自分にも触って欲しいとお願いする。すると伸也は少しうっとりした目で透を見るのだ。 「透が好きな場所……?」  透は頷いて伸也のシャツを脱がせると、自分のシャツも脱ぐ。彼の呼吸が着実に上がっているのに満足して、透は微笑んだ。 「今しんちゃんを触った場所。オレも好きだよ」 「……分かった、覚えとく」  そう言って、伸也は透の小さな胸の突起に触れた。触れ方はこれ以上なく優しいけれど、透には十分な程に甘い痺れが腰の辺りを走る。ひくひくと身体を震わせると、残念ながらその手はすぐに離れてしまった。 (焦れったい……)  そう思って離れた伸也の手を取った。そして、彼の長いけれどしっかりした指の、人差し指と中指を口に含む。 「え、透……っ?」  透はその指を少し吸いながら、焦れるほどゆっくり出し入れした。口淫を思わせる動きに、案の定伸也は慌てる。けれど透を見る視線の熱は、更に上がった。  透はわざと舌を出して、見せつけるように指を舐める。愛しいひとの愛しい身体の一部を、ねっとりと。  透が自暴自棄になっていた時期は、慌てて視線を逸らして見ないようにしていた伸也は、今は遠慮なく熱い視線で見てくる。そう、それでいい、と透は心の中で呟いて微笑み、指を口から離すと、そのまま伸也の口内を犯す。 「……もう、どこでそんなの、覚えてきたの……」 「ふふ、どう?」  透の問いに、伸也は答えなかった。透も返事を聞きたい訳じゃなかったから、伸也に擦り寄り彼のパンツのゴムの部分に、指を引っ掛ける。 「しんちゃんがオレを見て興奮してると思うと、ゾクゾクする」 「……っ」  いつか見せた、伸也を誘う顔と声。彼は短く息を詰めると、次にはゆっくりと息を吐き出した。まるで落ち着け、と自分に言い聞かせているような雰囲気に、透は更に身体を近付け、彼の耳元で囁く。 「しんちゃん……やっぱり入れたい」 「う……っ」  官能的に誘うのは慣れている。だめ? と甘えた声で伸也の耳たぶを甘噛みすると、彼は小さく声を上げて両手をベッドについた。それを確認した透は、優しく宥めるように唇を啄みながら、そっと伸也の肩を押す。するといとも容易く、彼はベッドに倒れた。 「と、透……」 「大丈夫。オレが全部するから……ね?」  透は床に伸びていた伸也の足を抱えてベッドに乗せると、案外彼も大人しくベッドの上で体勢を整えた。そしてこの日の為に買っておいたローションとコンドームを、ベッド下の収納から取り出すのを、伸也は大人しく見ている。  透はそれらをベッドの上に置くと、伸也に向かってニコッと笑った。 「大丈夫だよ」  ほら脱ごう、と透は伸也のパンツを引っ張った。彼は腰を浮かせて下着まで大人しく脱がされたけれど、顔が緊張で強ばっている。  伸也は、こういう経験はほぼ無いと言っていた。元カノとはそういう雰囲気にはなったものの、勃たなかったと聞いている。以前もう少し詳しく聞いてみたら、元カノはことあるごとにそういう雰囲気に持っていこうとするため、会うのは外にしていたらしい。 (流されて身体を触るくらいまではしたけど、覚えがないのに妊娠騒ぎだもんなぁ)  それは嫌にもなる。透は男だからいい、とまでは言わないけれど、こういうトラウマは結構デリケートだ。何とか緊張をほぐしてあげようと、透も裸になり伸也の身体のそばに座ってかがむ。髪を梳きながら優しく彼の唇を啄み、そっと伸也の雄に触れた。そこは萎えるどころか熱く、硬くなっていて、彼からも小さく吐息が漏れる。 「……しんちゃんの、おっきいね」 「……そう、かな……」  これはお世辞でもなんでもなく、透の過去で触れ合った人たちの中でも、立派なものだった。これなら透の奥のいいところに当たる、と想像し、ぶるりと身震いする。 (しかもしんちゃんの初めて……ああ、早く入れたい)  きゅん、と後ろが疼いた。あくまでも優しく、そっとを心掛けてそこを扱くと、伸也の両手がシーツの上でギュッと握られる。 「気持ちいい?」 「……んん」  吐息のような、詰めた息のような返事をする伸也に、透は満足してそこから手を離した。そしてベッドの上に出したコンドームの個包装を破り、丁寧に伸也の中心に着けていく。 「透……」 「ん?」  不意に呼ばれて伸也を見ると、彼はいや、と視線を逸らしてしまった。その気まずそうな顔に、透は伸也が何を言おうとしていたのか予想がつき、苦笑する。 「……好きな人とするのは、初めてだよ? ほら、オレも緊張してる」  多分、手つきが慣れていると言いたかったのだろう。嫉妬してるの? と額を合わせて聞くと、ちょっと、と返ってきた。  透は起き上がって伸也の手を取り、自分の胸に当てる。ほら、ドキドキしてるでしょ、と笑うと、本当だ、と彼も笑った。  そして再び身をかがめ、伸也と優しい口付けを繰り返す。その途中でローションを手に取ったり、それを後ろに塗りつけたりしていると、後ろでも気持ちいいものなの? と聞かれた。 「ん? まあね。しんちゃんもやってみる?」 「いや、僕は遠慮するよ……」 「何で~?」  そんな会話をしながら、透は後ろの準備をしつつ、伸也を萎えさせないようにキスをしたり、それとなく性感を高める触り方をする。そんな透を見てやっぱり慣れてる、なんて嫉妬されながら、いよいよ準備が整い、伸也の切っ先を後ろにあてがった。 「……入れるよ?」  伸也は無言で頷く。透は中腰の体勢から伸也の肉棒を支え、ゆっくりと腰を落としていった。 「う……」  ほぐしていたとはいえ、小柄な体格の透には、立派な伸也を受け入れるのは少しきつかった。意識的に呼吸を大きくゆっくりにし、みっちりと埋まっていくそこを、伸也も呻きながら見ている。 「んん……」  透の尻と伸也の腰が合わさった。伸也の楔を全て飲み込んだ透は、予想通り、それだけで奥のいい場所に当たり、無意識に後ろをひくつかせる。 「全部、入ったよ。しんちゃん……」  キツくない? と聞くと、伸也は眉間に皺を寄せて目を閉じ、無言で頷いた。彼の手が白くなるほどギュッと握られていたので、気持ちいい? と聞くと、伸也は声もなくコクコクと頷いた。 「と、透……っ」  何とか声を出したらしい伸也が、両手をこちらに伸ばす。透は胸を合わせるように上半身をかがめると、伸也はギューッときつく抱きしめてきた。 「……っ、う……っ」  伸也の息がとても熱くて早い。指が食い込むほどに、背中に回った手に力が入っていて、透は伸也を宥めるように頭を撫でる。 「透、透……、ごめんもう無理……っ」 「うん、動いていいよ」  透は動きやすいように少しだけ身体を起こすと、伸也の大きな手が透の細い腰を掴み、腰を動かした。 「あ……っ」  透はいきなり奥を突かれて目の前に星が飛び、思わず声を上げる。それでも何とか自分を保ち、突かれる度に出てしまう嬌声を抑えながら、伸也の唇を食んだ。 「しんちゃん、……っ、気持ち、いい……?」 「透、やばい……透のなか、すごくいい……気持ちいい……っ」  ぺちぺちと、透と伸也の身体が当たる音がする。そんなに激しくない動きだけれど、透は今までのどのセックスよりも興奮した。腰の辺りから脳天へ向けて、強い快感が突き抜ける──そんな予感がして、透は唇を離す。 「あ、やばいくる…………あっ、イク、いくいく……っ!!」  ブルブルと太ももを震わせながら伸也の身体をキツく挟むと、透は息を詰めて絶頂に耐える。同時に伸也も小さく呻いて息を詰めた。 「──ッア! しんちゃんっ、イッちゃったっ!」 「……っ、すごいね透のなか……、うあ、そんなに締めたら……っ」  どく、と透は中で熱が弾けるのを感じる。それにすら敏感に反応し、透は背中を震わせた。伸也は透の尻を痛いほど掴み、首を反らせて息を詰めていて、赤く上気した顔も可愛い、なんて透は思ってしまう。 「イッちゃった……ね……」  透は起き上がって伸也の腹を見ると、そこにも透が出した精液が付いていた。もう少し楽しむつもりだったのにな、と思っていると、透退いて、と下から息が整っていない伸也の声がする。 「ああ、うん……」  正直もう少し余韻に浸りたかったな、と思いながら伸也の上から退くと、彼はコンドームを外して縛って捨て、新しい個包装を開けた。 「しんちゃん?」  どうしたのだろう、と思って見ていると、彼はそれを自分で装着し、透に軽くキスをしてくる。 「透……もう一回、いい?」  そう言うやいなや、伸也はそっと透を押し倒し、まだ熟れている蕾に伸也の怒張を差し込む。まさか伸也の初めてをもらったついでに二回目も、なんて思っておらず、透は慌てた。 「えっ? あっ、しんちゃんっ?」  しかも伸也の熱は冷めるどころか熱いままで、その上先程より凶暴になっている。さっきのは緊張で全力が出せなかっただけなのか、と思うとぶわっと透は全身が熱くなった。 「透、僕の片想いの長さ分、していい?」 「え? あっ? あっ! やぁ、しんちゃんっ!」  透の返事も待たず、伸也は動き出す。意識が引きずられそうな快感に身悶え、丁度いい位置にあった枕を掴み、しがみついた。 「ああ透……、僕が想像してたよりずっとえっちだし気持ちいい……」 「ち、ちょっ……! どんな想像してたの!?」  というか、一人でしている様子など皆無だったのに、一体どこでどう想像していたのか。落ち着いたら詳しく聞いてやる、と心の中で叫びながら、透は熱い吐息混じりの喘ぎ声を上げるのだった。

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