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【SS①】病室での一幕

(プロットにあったものの、いざ書いてみたら話が冗長になりそうで入れられなかったシーンです。国近が目を覚ましたあと、病室での一幕) 入院生活のほとんどを、美斗は国近の病室で過ごした。  初めの数日間、国近は体力が戻らず、眠ってばかりいた。  けれど、いつでも目を覚ませば美斗が隣で小説を読んでいた。病棟の最上階に、院内図書館があるらしい。それを見つけた美斗が、毎日のように通いつめていたという話をあとから聞いた。意識の端でページを繰る音が聞こえて、それがとても心地よかったのを覚えている。  そのうち、国近の活動時間が増えると……。 「まだ良くならないのか」  と、ベッドサイドで不平を言うようになった。 「俺は行き場がない。お前と一緒じゃないと帰れないのに……。おかげで入院が延びたぞ」  美斗の入院が外傷のわりに長いのは、無理やりコマンドを向けられたことへのケアと、マスコミから美斗を守るという理由もあるのだろうけれど……。  む、と美斗は不満げだ。 「……そうか」  と、国近は大人しく相槌を打った。 「病院の食事は味がしない」 「そうだな」  けれど、三食決まった時間に出てくる食事は、幾分か美斗の健康状態を良くしてくれたらしい。入院前よりも顔色が良くなった。 「早くお前の……」  言いかけて、美斗は俯く。 「……、……なんでもない」  薄く、国近は笑った。  美斗が飲み込んだ言葉を予想して、帰ったら何を作ってやろうかと考える。 「……マドレーヌがあるけれど、食べるか?」  警視庁の同僚から、連日見舞いの品が届く。一人では到底食べきることのできないそれらは、たいてい二人で有り余った時間を過ごすためのお茶請けになっていた。  食べる、と美斗が言うので国近は戸棚に手を伸ばし、包装を開けてやった。  あ、と美斗が口を開ける。当然のように食べさせてもらう気らしい。  指摘すればきっとやめてしまうだろうから、黙って美斗の舌に焼き菓子を乗せた。  彼はそれをもぐもぐと咀嚼して、 「……美味い」  と答える。 「それは良かった」

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