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キサラギ×アルバン 3.欲
あのあと目を覚ました私は一旦自室に戻りシャワーを浴びて、髪を整えた。魅力的な人にディナーに誘われたのだから行かなければならないだろう。しかし本国から私物を持ってきていないから私のスーツもここには無い。まぁ、私のような戦闘能力のないやつが逃げ切れただけましのなのだろうが着替えくらい持ってこればよかったとも思う。ボロボロの上着から欠けたブローチを取る。キサラギの名が刻まれているそのブローチは私のお気に入りだ。遠くサレヘアから取り寄せ、名を刻ませたものである。欠けていることに気づいた時は少し残念に思ったが今日はこれをつけていこうか。そのブローチを机に置いて私は魔法を一つ使う。母国では魔法は禁じられているのだが隠れて覚えた収納魔法だ。その中に1着だけパーティ用の貴族の服が入れてある。急に誘われた時などに使おうとずっと前に入れたものだが今回ばかりは助かった。黒をベースに金の刺繍が施されたロココ調の服だ。私は派手なものが嫌いなのだが貴族のパーティに地味なスーツで行くと評判が悪くなるので派手では無いが装飾のあるこの服をいれたのだったか。私の好みではないが借り物の服で食事に行くよりは随分マシである。とりあえず借り物の服から着替えた。この服ならばブローチはいらないだろうか?少し悩んだがお気に入りだからつけていこう。少しくらい不格好でも私がよければそれでいいのだ。
さて、彼の部屋に戻るか。私は松葉杖をつきながらアルバンの部屋に戻った。
部屋に戻るとアルバンが帰ってきていた。
「おや…断られたかと思ったがそうではないようだな」
「せっかく誘ってくれたのだ、服があれでは申し訳ないだろう」
怪我のせいもあって着替えに時間を食ったらしく、彼が帰ってきていたため約束を違えてしまっていたらしい。すまないと謝ればアルバンはすぐに許してくれた。そして彼が着替えるというのでベッドに腰掛けて待つことにした。
「そのような綺麗な服を着られては我が不釣り合いにならぬか?」
「すまない、今手持ちがこれしかないもので」
彼が着替えようとしている服はおそらくフォーマルなスーツだろう。クローゼットに掛けてあるそのスーツを手に取り今着ている服を脱ぎ始める。着替えの途中で彼を見れば腰から下は厚い甲殻と鱗が見えた。美しく輝くそれに見入ってしまっていたら恥ずかしそうな声が聞こえる。
「あぁ、こら。あまり見るでない」
「綺麗な鱗だな」
腰からふくらはぎまで覆うように鱗が生えている。きっと半獣化を解けば人の体だのだろうがこれはこれで美しい体だ。背中に紋章のようなものが刻まれている。現代の世界共通語では無い言語が書かれていることはわかる。
「だから見るなと………」
「それはなんと書いてあるんだ?」
円を書くように刻まれているのだが全く読めない。びっしりと書かれたその文章が気になって指をさした。
「ん?あ、ああ。それか。上に「天に愛されし清らかな子」と書いてあってな。それは我が夏に生まれたとこを意味している」
アルバンは背中を見ながら1つ1つ読み上げた。
「その下に「神の子アルバン」だ。それは神龍の名だな。そしてその下に…嫁の名だ」
「そうか、体に刻むのか。責任重大というわけだな」
「命尽きるまで添い遂げる覚悟は必要かもしれんな」
一族の結婚式で体に恋人の名前を刻むらしい。それは神の伴侶であるとするための儀式だそうで、神の命とともにあることを示すそうだ。
「それは興味深い」
「さて、もういいか?服を着ても」
「ああ」
説明の為に服を着るのを止めていたアルバンが苦笑いする。私が頷けば輝く鱗を隠すように服を着ていく。
見れば見るほど私のものにしたい。
着替え終わったアルバンに手を借りて立ち上がり松葉杖をつく。
二人はそのままレストランに向かった。
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