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キサラギ×アルバン 2.出会い
あれから数日。スレヴ本国で治療を受け、リハビリに励んでいる。
スレヴの人達は実に優しく、敵国から来た私さえも歓迎する。本当に神の国だ。素晴らしいと思う。
スレヴ王国。1300年前に突如結成された武装集団の名称である。正式には「国」の条件を満たしておらず、武装集団にとどまっているが結束力が恐ろしく、国と言っても過言ではない。
スレヴ王国では騎士団の長が国王クラスの権限を持っており、そのしたに班長、小隊長、一般兵が居る。そして国民というクラスの者も居て、他国から逃げてきた者や戦争で家族を失った者等を保護し「国民」として迎えているようだ。スレヴ王国はスレヴの掟さえ守れるのであれば敵国、隣国構わず迎え入れる。それは人間、獣人、魔族、神、そしてアンドロイドさえも迎え入れるという包容力を持っている。敵国の国王である私が知る情報ではスレヴでは地位は力で勝ち取るものであり、力無きものは国民として生きるしかないらしい。騎士団長に関しては年に一度開催される騎士団長決定戦というトーナメント形式の戦いで決まるそうだ。勿論現騎士団長も参加し、そこで負けてしまえば負けたランクに応じた地位に下がるという。そんな物騒な1面を持ちながらも反乱が無く1300年も存続しているのだから驚きだ。
善人悪人問わず迎え入れ、無償で住居、食料、職場を与えるということから神の国とも呼ばれている。(初代国王が人神であるからという説もある)敵として争っていたが来てみればいい所だ。人の温かみが染みる。
治療を受けて、渡されたルームキーに書かれた番号の部屋を探す。しばらくは松葉杖をついてあるくしかない。左足は骨折。全身に打撲と切り傷が多く、右肩に抉られたような傷があったそうだ。ガラスや刃物も複数刺さったまま倒れていたという。傷は深く少しでも対処が遅れていたら危なかったらしい。全て無償で治療してくれたし、治るまでは騎士団の寮の1室を貸してくれているし、食事も衣服も提供してくれている。母国では毎日痛めつけられる日々だったからというのもあるのだろうが好待遇に涙がでそうになった。
部屋について荷物を整理した後、本部の構造でも見てみようと思って部屋を出た。ここ、スレヴ騎士団寮と本部はとても変わった構造になっている。扉がなく、内部に入るには各所にある魔法陣に行きたい場所を書くと任意の場所に行けるという魔法国家ならではの仕組みになっている。そして、寮と本部は魔法陣で通じていて魔法陣に乗るだけですぐに着く。本部は比較的軍隊色が強いが食堂や中庭、フラワーガーデン等があり、気晴らしにはもってこいだ。今日はどこに行こうか、と悩みながらホールに向かって居た時、ついバランスを崩し倒れてしまった。
「っ……!」
倒れた衝撃は果てしなく、全身の痛みに蹲 った。抱えていた松葉杖が転がって手の届かないところにある。動くのも痛みで動けず、声をあげることもできなかった。助けを求めるべきなのだろうが声も出せず動けない。
「………大丈夫か!?」
そんな私に駆け寄る男性が見えた。赤黒い長髪をゆるく結んだ髪型で顔には独特の紋様が刻まれた男性だ。少なくとも騎士では無いらしく騎士の服を着ていない。大丈夫では無いと首を振ってまた蹲る。
「どこか痛むのか?…ああ、傷か。立てるか……?」
ゆっくりと首を横に振った。立てるような状況では無い。痛みで今は動けないと訴えると、彼は松葉杖と私を抱えあげた。
「痛む場所を触っていたらすまぬ。とりあえず横になれるところに連れてゆくから待ってくれ」
そう言ってどこかに向けて歩き出す。礼も言えないまま蹲り、抱えられていたがすぐに布団に降ろされた。そっと目を開ければ、そこは寮の1室のようだったが私の居た部屋では無い。
「…………ここは?」
振り絞った声を出して赤髪の男性に聞いた。
「すまぬ、我の部屋だ。寝かせられるところが思いつかなかった故、ここで勘弁してくれ」
男性はベットの隣のいすに腰掛け私に布団をかけてくれた。
「…すまない。感謝する」
「良 い。怪我人を見捨てられる訳が無かろうが」
やっと痛みが収まってきて、改めて彼を見て見ると、美しいエメラルドグリーンの瞳をした美しい男性だった。睫毛も長く、整った顔の男性は私が見つめていることに気づくとにっこりと微笑んでみせた。
「おぬし…まさか……、いや違うな。おぬし、名は?」
「…………き、キサラギ…だ」
「キサラギ…か。良よい名だな」
危うくアルガンディアと名乗りそうになり焦ってしまった。先代と同じこの名を語れば信頼を失くすかもしれない。
「我はアルバン・ヴォルロウだ。5代目神龍のアルバン。気軽に名で呼んで構わぬ」
「アルバン………?貴公があの英雄か?」
聞き覚えがある名前だった。アルバンそれは世界の危機を救った神の龍の名前だと教わった。天地天変戦争の英雄。
「英雄か。そう言われるようになったか。間違いないだろうな。きっと我の事だ」
「道理で美しいわけだ」
スレヴ王国は神の龍である火龍が仕切っているということは知っていたが伝説を残した者まで在籍していたとは知らなかった。
「美しい……?我が……か?」
「ああ、そう思ったから」
「そうか。我が美しいとは言われたことが少なくてな。神としてはよく言われるのだが」
アルバンは照れくさそうに微笑む。そんな彼を見てひとつの疑問が生まれた。あまりにも若く見える。
「しかし、大昔の英雄ともあろう奴が若いな」
「ぬかせ、我はもう17,989年生きておるわ」
「い、1万7千…だと……?」
あまりにも桁が違いすぎて驚いた。それだけの年月生きてきた割には見かけは20代後半の人間と変わらない見た目だ。老いているようには全く見えない。
「1万7千生きている、というと語弊があるか……。そのうち5千年は眠っていたからな」
「仮にそうだとして、若すぎる」
「ああ、若いとも。神龍に1万2万など人間でいえば30も行っていない。初代神龍様がまだご存命なのだからな」
伝説にも「神龍は世界の始まりから終わりを見届けるほど長く生きる」とあったが事実のようだった。
「驚いた。伝説の通り、永く生きるようだな」
「そうはいうものの、現時点で存命の神龍は初代神龍アマツ様と我、あとはひ孫だけなのだがな」
力が弱ければ死ぬと苦笑いし、大切にしているという孫との写真が入ったロケットペンダントを見せてくれた。そこにはアルバンと、その孫と思われる赤子と青い髪の男性が写っている。
「家族…………か」
私には縁遠い話。家族など夢のまた夢だ。
「ああ。良いだろう?実に愛らしい」
家族を見て微笑む彼が羨ましく見えた。
「そうだな。羨ましいくらいだ」
「…すまぬ。禁句だっただろうか」
そうではない、と否定する。だが自らの本名も、親も家族も知らない私には憧れがあるのかもしれない。
「そう言う我も、最愛の嫁を失ったばかりだがな」
「そちらの方が禁句に近いと思うぞ、アルバン」
苦笑してもう一度ロケットペンダントを見せてくる。青い髪の男性は嫁だったらしい。そこから嫁はこういう奴だったと、そこからはアルバンの思い出話を聞いた。出会いから別れまで実に表情豊かに話をしてくれた。泣きそうになったと思えば笑って、喧嘩の話では嫁が悪いのだと拗ねたりもしていた。その話を聞きながら私はアルバンに見入っていた。綺麗な瞳に、美しい髪。一目惚れかもしれない。女性と言われても納得できそうなくらい綺麗な彼に一目で惚れてしまったらしい。
「……どうかしたか?そんなに我を見つめて」
「綺麗な人に出会ったな、と思ってな。女ならすぐにマーキングしている所だった」
女でなくても奪いたいところだ。こんなに好みな者は初めて見た。
「困った。レフ以外には恋人を作る気は無いのだがな」
「拒まれるほど燃えるだろう」
「積極的なのだな……」
恋愛経験などないが、これを逃せばきっと後悔する。そう思って距離を詰めようとしたが……。
「おっと、すまぬ少し用事があるのでな…ここに居るのは不満かもしれぬが早く帰ってくる故に待っていてくれるか?」
話し込んでいるうちに時間が過ぎていたらしい。痛みが引いたら帰ると言うと困った顔をされた。
「ずっと邪魔してるわけにもいかないだろう?」
「そ……そうか…。共に晩飯でも、と思ったが…」
「ディナーのお誘いか…悪くないな」
「おぬしが待っておったら、共に行くことにしよう。では」
部屋をあとにするアルバンを見送り、私は目を閉じた。少し仮眠をとるつもりで。
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