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第16話
「大丈夫ですか?」
「ん……なんとか……」
すぐには動けなかった麻生さんだったけど、少し休むと僕に身体を預けながら一緒にシャワーに入る事が出来た。
「すみません、夢中になってしまって……」
「謝んなって。それよりもお前は大丈夫なのか?」
「えぇ、大丈夫です。とても幸せな気持ちです」
「……そっか、良かった……」
僕の家に置いてくれている部屋着用のスウェットに着替えた麻生さんは、僕に笑顔を見せて抱きついてくるとそのまま眠ってしまっていた。
「ありがとうございます、麻生さん……」
寝息を立てている麻生さんにキスをすると、僕も眠る事にした。
身体も心も繋がり、麻生さんと恋人関係になれた僕。
夜勤明けは必ず僕の家に泊まるというのが通例となり、飲み会があっても1次会で帰って家で過ごすようになっていた。
そして、僕と麻生さんはふたりきりで過ごす時には必ずセックスするようになっていた。
そんなある日、麻生さんが怪我をした後輩の職員の代わって柔道の大会に出る事になり、僕は職員なら見に行ってもいいという話を聞いたので家から歩いてすぐの場所にある会場へ向かった。
『悪いな、亨。大会終わるまでセックスすんの控えたいんだ』
そう言われた時は正直辛かったけど、その代わりに麻生さんは僕のをいつも口でしてくれて、素股で気持ち良くしてくれた。
『自分で言っといてなんだけど、お前と出来なくてスゲー苦しい。だから……大会が終わった日はめちゃくちゃセックスしたい……』
試合の前日、麻生さんは恥ずかしそうにしながらそう言ってくれた。
約1ヶ月間、セックスしないで過ごしてきた。
それも今日で終わる。
僕は会場に着くと、麻生さんの姿を探した。
「涌井」
そこで、あの岡江に会った。
「お疲れ様です」
「麻生さんの応援に来たんだな」
「そうですが……」
あれから、僕は当たり障りなく接しているつもりだったが、時々向こうが僕に向ける目つきが普通ではない事を知っていた。
怒りというか嫉妬というか。
僕が麻生さんといて、麻生さんが楽しそうに笑っているのを見ると、岡江は僕にそうした思いが滲み出ている目を向けていた。
「麻生さんに気に入られてるからって調子に乗んなよ」
「調子になんて乗ってませんよ。変な言いがかり、つけないでもらえますか?」
イラついた口調で話してくる岡江を、僕は冷然とあしらう。
「てめぇ、父親がお偉いさんだからって好き勝手やりやがって……」
僕よりもだいぶ背が低いのに、岡江は僕の胸ぐらを掴んで睨みつけてきた。
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