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第17話
「おい、何やってんだよ!!」
そこに、柔道着姿の麻生さんがやって来る。
「あ、麻生さん」
岡江は慌てて僕から離れるが、間に合わなかった様だ。
僕の胸ぐらを掴んでいた事を麻生さんに問い詰められると、岡江は僕にちょっかいを出さないようきつく言われていた。
「次やったらここから退場だ、いいな?岡江」
「わ、分かりました……」
背筋も凍るような目をして、いつもよりも低い声で話していた麻生さんに、僕も一瞬、恐怖を感じた。
岡江がそそくさとその場からいなくなると、麻生さんは大きなため息をついた。
「すみません、試合前なのに」
「いや、むしろ大丈夫か?」
「はい、ちょっと言いがかりつけられただけなので」
柔道着の下に何も着ていないのか、時折麻生さんの白く美しい肌が見える。
戦ったらはだけたりして、他の人たちにその肌を見られるのかと思うと、とても勿体なく感じた。
「頑張ってくださいね、麻生さん」
「おう、サンキューな、亨」
ふたりでいる時だけ呼んでくれるようになった、僕の名前。
僕も名前で呼んでいいと言われていたけれど、そのタイミングを逃していた。
……今夜かな。
終わったら家で逢う約束をしていた僕は、麻生さんと別れて試合を見ながらそんな事を考えていた。
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