恋人っぽい甘々な雰囲気でお姫様抱っこされ寝室に連れて行かれた僕は、ふわふわした気持ちのままベッドに寝かせられた。あぁ、ついに最終目標を達成するときがきたんだなぁなんて、感慨深い気持ちになってくる。 　ついでに言えば、ものすごく心臓が暴れまくるし体は緊張しすぎてガチガチだ。そんな僕の目に、ベッドの脇に並んだいかがわしいものたちが目に入った。 「……ぅわあぁぁぁぁぁ！」 「どうした？　……あぁ、これか」 「みみみみ見ないでくださいぃぃ！」 　慌てて道具を隠そうとしたけれど、ガチガチになった体は急には動かなくて起き上がることもできない。そんな僕を見て穏やかに笑ったスピネル様の目が、ついと道具たちに向けられた。 「もう随分大きな張り型まで進んでいるようだな。さすが医者というべきか」 「うわあぁぁぁぁぁ！　だから見ないでくださいって！」 「なぜだ？　わたしのために拡張してくれていたのだろう？　恥ずかしがることはない」 「無理です、恥ずかしいです！　だから、手に取ったりしないでくださいぃぃ！」 「ふむ、これが最大か。わたしのより少し小さい気もするが、ここまで入ったのなら十分だろう」 「あんたはもっと情緒とか機微とか学んでくださいっ！」 　涙目で情緒もくそもなく叫ぶ僕の目には、まだ張り型を観察しているスピネル様が映っていた。 　今夜使う予定だったソレは、旅行鞄(トランク)の中に用意されていた中で一番大きいものだった。昨夜、最後に挑戦したときには半分くらい入った。だから今夜は最初からコレにしようと思って用意していた。 （それをまさか見られるなんて思わないだろ!?） 　いや、モノを見られるだけなら何てことはない。そりゃあ気まずい思いはするけれど、医療道具の一種だと思えばここまで狼狽えることはなかった。 　しかし、この道具は僕が使っているものだ。そう思うと顔から火が出そうなくらい恥ずかしかった。 「ほう、潤滑油は水仙か」 「～～……っ！」 　死ねる、これはもう完全に死ねる！ 　なんで張り型を片手に潤滑油の瓶まで手に取るかな!?　何種類もある潤滑油の中からそれを僕が選んだって知られるの、死ぬほど恥ずかしいんですけど!? 「たしかに水仙の香りはサファイヤにぴったりだ。清涼感のある甘さで、どこか凛としているところはサファイヤそっくりだしな」 「～～っ！」 　駄目だ、もう声すら出てこない。きっと僕の顔は真っ赤になっているはず。気のせいでなければ、羞恥のあまり手足がブルブルと震え出している。 「それに水仙といえば希望を表す花だ。サファイヤがわたしとのことに希望を抱いているのだと思えて、柄にもなく興奮した」 　あまりにも綺麗な笑顔を見せられ、頭のてっぺんからプシュウゥと湯気が出たような気がした。もちろん爆上がりしていた心拍は限界を超え、動いているのか止まっているのかわからない。きっとみっともないくらいの涙目にもなっているはず。 　それなのにスピネル様は「かわいいな」なんて言って、優しくキスをした。 　　※　※ 　股の間からグチョグチョといやらしい音がする。水仙の澄んだ甘い匂いが鼻いっぱいに入ってきて、それに酔ったみたいに頭がクラクラしっぱなしだ。 「もう三本も入った。こんなに柔らかくなるまで拡張してくれていたんだな」 「ぅ……っ、ん……っ」 　羞恥心を学んでくれと叫びたいけれど、口を開いたらとんでもない声が出そうな気がして、必死に唇を噛み締める。 　そもそも直接指を入れるなんて、なんてことをしてくれているんだ。張り型があるんだから、それを使えばいいだろ。スピネル様との攻防でそのことを何度も訴えたけれど、「わたしがいるのだから、もはや道具に用はない」なんて言って無視された。 　意味がわからないし、理解できなかった。 （だって、あんなところにスピネル様の指を入れるなんて、あり得ないだろ！） 　そう思っている間に潤滑油をお腹の上にたっぷりかけられ、それに気を取られているうちにズッポリと指一本を突っ込まれていた。その後はまるで嵐だった。グチョグチョと音を立てながらナカをほぐされ、すぐに二本、気がつけば三本目まで入ってしまっている。 　立てていたはずの膝はガクガクしながら力が抜けて、ぱかりと大股開きなんて情けない格好になっていた。それが恥ずかしくてどうにか体勢を変えたいのに、右足をスピネル様に軽く押さえられてしまったせいで、僕の大事なところはご開帳よろしくそのままだ。 　っていうか、僕のパジャマを脱がせるの、手際がよすぎやしませんでしたか!?　あれも本を読んで学んだとか、絶対に嘘でしょ!?　どうやれば何個ものボタンを一気に外せるのか、着ている本人に気づかれることなく下着と一緒にズボンをぺろりと剥ぎ取れるのか、説明してください！ 　そんな魔法のような手際のよさに「え？　なに？　どういうこと？」と驚きながら全裸にされた僕の目の前には、シルクのパジャマ姿のままのスピネル様がいる。せめてスピネル様も裸だったら羞恥心も少しは減っただろうに、…………いや、裸のスピネル様を目にしたら今度こそ確実に心臓が止まってしまう。 「何やら集中できていないみたいだな？」 「ひ……ぃっ!?」 　ソコを指で押された途端、お腹にブワッと熱が広がった。 「なるほど、これが前立腺か」 「んっ、ん……っ！」 　なんで前立腺なんか知っているんだよ！　その知識もろくでもない本から仕入れたのか!?　医学書以外でも、そんなに一般的に普及していたんだな前立腺って……、なんて思うか！ 「前立腺で快感を得るのは簡単なことではないと聞いたんだが……」 「……っ!?　ふ、ん、んーっ、ん、ん！」 「涙目といい必死に口を塞いでいることといい、どうやら気持ちがいいようだな」 「んー……！」 　確かめるように、ソコばかりグリグリいじるな……！　ふぁ、駄目、押したら駄目……！　ぁう！　ソコ、指で挟んだりしたら、ふ、ぅぁ、ぁ、ぁ――……！ 　口を押さえていた両手にギュウッと力が入った。下腹部がビリビリしてお腹の奥からせり上がるものを感じる。あまりにも恐ろしい感覚に、僕はみっともなく開いたままだった両足で必死にベッドを蹴った。 　恐ろしいものをもたらそうとしているスピネル様の指から逃げなければ……、それしか考えられない。逃げよう、逃げなければと必死に動いているはずなのに、僕を見下ろすスピネル様の顔がどんどん近づいてくる。ナカで前立腺をいじる指は、ますますソコばかりを集中攻撃する。 　ビリビリ、ジクジク、ジンジン、途中でビクッと体が跳ねて、これは絶対にまずい状態だと頭の中で警鐘が鳴り響いた。 　やめて、お願いだからやめて、指を止めて、抜いて、そう必死に目で訴えたが、スピネル様は少し笑ったまま僕を見つめるばかりだ。そうして鼻先が触れそうなくらい近づいた美貌が、ゆっくりと口を開いた。 「いってごらん」 　いつもよりずっと低く艶のある声が耳に届いた瞬間、僕の体にビーンと突っ張るような不自然な力が入った。グワッと一気にせり上がった熱が、首の後ろをゾワゾワさせ頭を真っ白にする。腰に変な力が入って、まるで突き上げるようにお尻がベッドから浮き上がった。 　そうして僕の性器からは、ビュビュッと精液が飛び出した。 「前立腺だけでいける男は多くないと聞いていたが……。サファイヤには素質があったか」 「ひ……、ふ……、ふ、……は……」 　二十四年間の中で一度も感じたことのないほどの絶頂感に、言葉が出ない。 　スピネル様がとんでもないことを言ったのはわかっている。しかし、それに反撃できないくらいの気持ちよさと、とんでもない脱力感に襲われていた。精液以外にも何か出ちゃったんじゃないかと思うくらい……。 （すごかった……） 　それしか思い浮かばないくらいの絶頂だった。 「これなら大丈夫そうだな」 　スピネル様の熱が離れていく。あぁ、どこか触れているだけでも気持ちよかったのに、なんで離れるんだ。 　ぼんやりとそんなことを思っていた僕の耳に、ゴソゴソと衣擦れの音が聞こえてきた。スピネル様がパジャマを脱いでいるのかなぁ、なんて思いながらゆっくりと自分の股の間から向こう側を見る。 （…………は……？） 　ズボンを下着ごとずり下ろしたスピネル様の股の間には、それはもうご立派なモノがこれでもかと主張するようにそそり勃っていた。 　思わず「は？」と疑問を浮かべるくらい、立派なモノだ。ぼんやりしていたはずの頭に「たしかに一番大きな張り型よりも大きいなぁ」なんて、ろくでもない感想が浮かぶ。ついでに「美貌の言葉にピッタリな綺麗な色合いだし、医学書に載っていそうな理想的な形だ。それに太くて長くて、こりゃあ世の男たち全員が負けたと思ってもおかしくない逸品だぞ」なんて馬鹿なことまで思ってしまった。 　これも一種の現実逃避だったに違いない。 「そんなに熱く見られたら、ますます抑えがきかなくなりそうだ」 「……ふぇ……？」 　顔に視線を向けると、ギラギラしたオレンジ色の目が僕を射抜くように見ていた。 　あんなでかいモノ、入るわけがないと本気で思った。そもそも出す場所であって入れるところじゃないのだから、入れようと考えること自体に無理がある。徹夜を三連チャンしたときのような頭でも、ぐったりして使いものにならない体でも、これは無茶だとわかった。 　だから頭をフルフル振って無理だと訴えたし、涙目を隠すことなく必死にスピネル様を見た。それなのに覆い被さってきたスピネル様は「小動物のように震える様子もかわいいな」なんて馬鹿なことを言って、力の入らない貧弱な僕の両足を持ち上げた。そうしてグズグズに濡れていた僕の尻に、ご立派なものを突っ込んだ。 　ヌチュ、ジュブ、ヌチュンと、いやらしい音がひっきりなしに聞こえてくる。そのたびに僕の口からは「あ！」とか「んっ」とか「はぅ！」とか、まったく意味のない音が漏れた。 「正常位は苦しいという話だったが、サファイヤは体が柔らかいな」 「ん、んぅ……っ！」 「全部は入らないが、……あぁ、それでも恐ろしく気持ちがいい」 「んっ、ん……、ひゃぅっ、ぁう！」 　足首をグイッと持ち上げられ、まるでおしめを変えるような格好になった僕を美麗な顔がうっとりと見下ろしている。 　お尻もお腹もいろいろ苦しいのに、思わず美しく色気たっぷりの顔に見惚れてしまった。そうしたらググッとでかいものがお腹のナカを抉ってきて、「ひゃん！」なんて変な声が出てしまった。いつもの僕なら絶対に出さないような高くて卑猥な声に、慌てて唇をギュウウと噛み締める。 「唇を噛み締めるなと言っているだろう？　かわいい唇に傷がつくぞ」 「ん～～！　ん、んっ、んぅ」 「まったく、子どものようだな」 　どちらかといえば、スピネル様のほうが子どもっぽいところ、多いんですからね！ 　心の中で文句を言いながらフルフルと頭を振る。「仕方がないやつだ」と言わんばかりの顔で見られても、そうでもしていないととんでもない声が出そうで怖いんだ。 　……だって、僕だってこれが初めてなのに、気持ちがいいってわかるようないやらしい声を出したりしたら、まるで淫乱みたいじゃないか。 （そんなの、……そんなの、恥ずかしすぎるだろ！） 　同じ初心者のはずのスピネル様には余裕があるのに、僕ばかりがこんなふうになるなんて、卑怯だ！ 　ファルクの話だと僕は本当に顔に出やすいってことらしいから、きっといまも気持ちがいいって顔いっぱいに書かれているはず。それを見られているだけでも穴に入りたいくらい恥ずかしいのに、変な声まで聞かれるとか、絶対に無理だ！ （くそっ、本当になんでこんなに声が出ちゃうんだよ！） 　ちょっと触られるだけで「ふぁ」って声が漏れそうになる。ナカをスリって擦られるだけで「ひゃぅ」って声が上がる。「かわいい」と言われて、「気持ちがいい」と言われて、「僕も」なんて言いそうになる。 　こんなことなら見栄を張らずに、ファルクにその手の本を借りて僕も勉強しておけばよかった！ 「もっと声を出して構わないと言っているのに、強情なやつだ。それに、何やら不快な男のことを思い出しているようだな」 「ふ、ぇ……？　っひゃぅ！　や、ひゃっ、なに、な……っ!?」 「そういえば、ファーストキスは幼馴染みが相手だったと言っていたな？」 「ひ、ひぃ！　やめ、やめて、おなか、ぉなか……！」 「昨日もあの男に会っただろう？　あの店の菓子が好きだというから許しているが、あの男に会うのは禁じるべきか」 「や、ぁ!?　なに、な、……っ、ぉなか、おなか、押さな、ひぐっ！」 「なるほど、中を刺激しながら下腹あたりを押さえると効果的だと聞いたが……」 　不穏すぎる声の直後に、また大きな手でお腹を押されてビクンと背中が跳ねた。 　前立腺をナカからグイグイ押し上げられながら、臍の下のところを手のひらでグゥッと押されると、よくわからないすごいものがブワッと広がる。男が前立腺に弱いことは知識として知っていたが、臍の下を押されるとこんなことになるなんて、どの医学書にも書かれていなかった。 　これが快感なのか何なのかわからないけれど、強烈に広がる感覚が恐ろしかった。身も蓋もなく泣き叫びそうになるのを我慢しながら、必死にお腹を押す手を止めようとした。それなのに、僕の両手よりスピネル様の片手のほうが強くて全然止められない。 　それどころか何度もグイグイとナカを押し上げられるし、下腹もクックッと押されるしで、僕の顔は涙と涎でグチャグチャになってしまった。 「やぁ！　も、押さな、でぇ……！」 「泣き叫ぶ顔は見苦しいと思っていたが、サファイヤに関しては魅力的に見えるな」 「やらぁ！　も、ぉなか、やめてぇ……」 「強制的に快感を強めると言っていたが、なるほどすごい」 「やぁ……、も、……おさな、でぇ……」 　ブワッブワッと断続的に怖いものが広がって、だんだん体から力が抜けていく。それなのに背中はピンと張り詰めたままで、お腹もずっとビクビク震えっぱなしだ。 　それに、さっきから波のようなものが少しずつ近づいている気がする。ザザッと近づいたかと思えばズズッと引いて、またザザッとやって来る。それが足の指に触れそうになり、足の先からビリビリと怖いものがせり上がってくる。 　怖い、これ、絶対に怖いやつだ――！ 　感じたことのない感覚に、僕は必死に目の前の体にしがみついた。どこかに持っていかれそうなのが怖くて、知らないものに潰されそうなのが怖くて、ヒィヒィ泣きながらしがみつく。 「そろそろ、か」 「ひぃ！　ひ、ひぃ、や……！　こわぃ、から、やめ……！　ぉなか、こわぃ、おにゃか、こわ、ぃ……！」 「……っ、危ない、な。いかせる前に、こちらがもっていかれる、ところだった」 「や、あ！　なんか、くる！　やだ、やら、こわぃ、くる、ぅ……！」 「何事も最初が肝心だと、サファイヤも言っていただろう？　初めて感じる恐怖にも近い快感を与えているのは、わたしだ。わたしだけが、これを与えてやれる」 「ひ……、あ……、くる……っ、きちゃ……、にゃんか、こわぃの、きちゃ……」 「忘れるな。これから先、サファイヤにこれを与えるのは、わたしだけだ」 「や、らぁ――――！」 　バチンと何かが大きく弾け飛んだ。 　ギチギチに力が入った両手は、何かを必死にわし掴んでいた。ブルブル震えてどうしようもない両足も、熱い何かに絡みつけるようにしていた気がする。 　お尻とお腹にも、ギューギューと信じられないくらい力が入った。同じくらいの力で反り返ったからか、背骨からミシミシと変な音が聞こえたのは気のせいだったんだろうか。　そんな僕のお腹のナカに、熱いものがどんどん溜まるのを感じた。それはすごく熱くて、でもじんわりもしていて、不思議な感覚だった。 　ガクガク震えて止まらなくなった体を、誰かが優しく何度も撫でてくれた気がする。それがうれしくてスリスリと頬擦りをしたら、今度は優しくギュッと抱きしめられた。 　あぁ、僕はこの暖かなものがとても好きで――とても安心できる、そう思った。