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第1話 スズシログループの跡取り <Side 郭遥
学期末のテストも終わり、あと2週間ほどで、高校最後の夏休みに突入する。
テストから解放され、目の前に迫った夏休みに教室全体の雰囲気が浮き足立っていた。
「オレ、女に興味ねぇの。ゲイだから」
グラビア写真で盛り上がる男達の中、さらりと言って退ける声が、俺の耳に刺さった。
教室内へと歩み、足許に落ちていた俺の視線が、声の出所を探ろうと持ち上がる。
発信源を突き止めた俺の瞳と、声の持ち主である愁実 任 の視線が交差した。
バチッと音が聞こえそうなほど重なった視線。
外せない俺とは対照的に、愁実の瞳は何事もなかったかのように、ふわりと逸れていった。
俺、清白 郭遥 は、大手企業、スズシログループの御曹司。
企業のコンサルや警備、弁護が得意分野だが、近頃は貿易などでも業績を上げ始めていた。
この世に、その名を知らない人間など存在しないというほどの有名企業、それがスズシログループだ。
短く刈り込まれた髪は、真っ黒な直毛。
伸ばしたところで、スタイリングなど出来たものじゃない髪は、俺の性格を表すかのように遊びが足りない。
はっきりとした眉筋に、アイラインでも引いているかのようなくっきりとした目鼻立ちは、無表情でも威圧感を漂わせる。
人懐っこい顔には程遠く、近寄りがたいとよく言われる。
俺の将来は、先々まで決まっている。
この偏差値のバカ高い男子校を卒業し、有名大学で経営を学び、スズシロの仕事を継ぐ。
偏差値も高ければ学費も高いこの高校には、それなりの有名企業の子息が集まる。
女に現 を抜かさずに、将来を見据え、勉学に励めとでもいうように。
将来の結婚相手も、すでに決められている俺たちに、恋愛は無用の長物だ。
俺の周りには、家柄を重んじる奴らが集まる。
その中には、小さな頃から知っている奴も何人かいる。
いわゆる幼馴染みで、旧知の仲ではあるが、こいつらに腹の中を見せるつもりはない。
社会に出ればこいつらは、俺の部下になるか、ライバル企業に早変わりするからだ。
だが、見回す限りスズシロのライバル足る企業が、この中にあるとは思えない。
こいつらが継ぐ会社は、スズシロの足元にも及ばない。
結局は、甘い汁を吸おうと寄ってくる腰巾着に成り下がるのだろう。
父曰く、人の上に立つ人間は、傲慢で横柄なくらいで丁度いい。
常に疑心を抱き、他人を信用するな。
お前に味方など、存在しない。
寄ってくる人間は、金と権威に媚びているに過ぎない。
周りに人が溢れても、お前の人望ではない。
そう父に、摺り込まれていた。
いつでも人に囲まれ盛名に溢れているように見える俺だが、こいつらはバックボーンに惹かれているだけだ。
誰一人として俺という人物を慕っているわけでもない。
俺は、誰も信用などしていない。
清白の家に生まれた俺には、自由な恋愛も、打算のない信頼も、存在しない。
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