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第36話 最悪の回答 <Side 近江
礼鸞からの報告書には、愁実のフルネームと写真、家庭環境が記されていた。
そこには、愁実の父親が裏の金融会社から金を摘まんでいるコトも記されていた。
スズシロの金が、目当てなのではないかと勘繰った。
牽制するにしても、俺が話をするわけにはいかない。
俺は、郭遥に提言できるような立場ではない。
だか、友人という立場を利用し、スズシロの金銭を狙っているかもしれないという懸念が拭えない以上、当主に何も報告しないわけには、いかなかった。
報告書には、郭遥との間に友人以上の関係も疑われると記されていたが、それほど気には止めていなかった。
まさか、郭遥が明言するとも、思ってはいなかった。
当主に詰められた郭遥は、〝恋人だ〞などと宣う。
……最悪の回答だ。
利害でしか人と付き合えない当主に、なんの生産性もない男同士の恋愛など理解できるはずもない。
まだ、〝友情〞の方が理解は示してもらえただろう。
郭遥が去っても、書斎の空気は当主の機嫌をそのままに緊迫を醸し、嫌な空気が充満していた。
「近江」
地を這うような低い音で、名を呼ばれる。
「はい」
臆する空気を孕まぬよう、いつもの音で声を返す俺に、当主の溜め息が続く。
「あいつは、俺に言われたからと縁を切るような子じゃない。…こっちから剥がすしかなさそうだな」
トントンッと机に乗る報告書を指で弾く当主に、俺は頭を下げる。
「承知しました」
明言はしないものの、この愁実という人物を郭遥から遠ざけろというコトだ。
スズシロの金を狙っているのなら、ある程度を握らせれば、黙って消えてくれるだろう。
郭遥に知られず、愁実に消えてもらうのが最善だ。
俺が手を回したコトも、出来るならば内密にしておきたいところだ。
郭遥の機嫌を、損ねたくはなかった。
俺が愁実の身辺を洗い、当主に報告したコトを、郭遥は察していたはずだ。
今後、郭遥の管理もしていくと考えれば、これ以上の関係悪化は避けたかった。
だから、勉強会をしたいという郭遥のために、泊里から提示された部屋の賃貸の契約や諸々を、あえて当主には内密に処理してやった。
愁実との密会にでも使うつもりなのだろうという思惑も、見てみないフリをした。
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