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第115話 憧憬の雲、すくう泥 <Side 郭遥
俺は、天原が届けてくれたリングの刻印を確認し、〝H to T give everything〞と刻まれたものをシルバーのチェーンに通し、愁実の首に着けた。
「……なに?」
かけられた指輪を摘み、訝しげな声を放つ愁実。
「俺の全てを捧げるっていう誓いだ」
もうひとつ、〝H treasure T〞と刻まれた揃いの指輪を見せ、言葉を繋ぐ。
「お前は俺の宝物……、このくらいしかしてやれないけど、俺の全てはお前のものだと思っていて良い」
刻印を確認させ、俺は今まで着けていた結婚指輪を外し、新しいそれを薬指に嵌めた。
失くしたと思った宝物が、目の前に現れる。
濁った泥の中から、大事な大事な宝物を掬う。
目に見える紙の契り。
そこには存在しない愛という想い。
想いのない契りなど、意味を持たない。
見えない想いは、…心だけは、誰にも縛れない。
心だけは自由だから。
心のままに契るから。
守ると決めたから。
放さないと誓うから。
見えない想いを信じて欲しいと、乞い願う。
形として残せなくても。
手で触れられなくとも。
そこにあると信じて欲しい。
……俺が想う君への愛を。
憧憬の雲も、地を這う泥も、お互いの心にはお互いが、巣食う……。
【 E N D 】
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