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第37話
生徒会長がももちゃんをどう思ってるかなんて知らないが、それは俺の障害になるだろう。
計画は邪魔されたくない、もう少しで二人だけの世界が出来上がるんだから…
もう一度ももちゃんに会いに行こうか、いや…あまりベタベタ傍にいるのは良くないだろう。
少しももちゃんには孤独を味わってもらわないと…
大丈夫だよ、本当の孤独じゃないから…さっき病室にカメラを仕込んだし…兄貴も分からない場所にあるからずっと見てあげるね。
もうすぐ新入生歓迎会だ、ももちゃんが入院するとは思わなかったから見てもらいたい人がいないから張り切った演劇が無駄になってしまった。
クラスの雰囲気を確かめるために出るけど適当にやろうかな。
ポケットに入れていたスマホが震えて取る。
ももちゃん関連で兄貴からかと思ったが画面を見て眉を寄せる。
電話番号教える気はなかったけど勝手にスマホ取られて登録されたんだっけ。
消すの面倒だから放置したんだよな、着拒しとけば良かった。
ももちゃんがいるし、もうコイツもいらないな…
スライドして通話にした。
「…話があるんだ、今会える?」
別れは早い方がいいし、こんなところももちゃんに見せられないから今は都合がいい。
初めて電話を掛けた、これが最初で最後だ。
何も知らない電話相手ははしゃいでいた。
…耳障りな声だ。
電話を切り待ち合わせ場所に向かう途中でよそ見していた誰かとぶつかった。
今日は最悪な日だな。
「あっ、ごめんなさい!」
「……別に」
「場所を探していてこの近くに病院があると思うんだけど」
「はぁ…あっち」
「ありがとうございます!」
面倒そうに答えると男は明るい顔をして何度も頭を下げて病院に向かっていった。
あれ?…あの男、確かももちゃんの…
素直に教えずに無視しとけば良かったともう一度ため息を吐いた。
白川凪沙は昔から一人ぼっちだった。
両親は仕事大好き人間で滅多に家に帰ってこない。
兄も歳が離れているから部活とか大学行ったらサークルとかで忙しくてあまり家にいなかった。
少しだけ寂しいと思っていた時はあったが、それも時間が過ぎれば薄くなった。
学校に行けば容姿のおかげでいろんな人にちやほやされた。
中身なんてない、空っぽの褒め言葉の攻撃。
いつしか凪沙の目には周りの人間が人ではない怪物のように見えていた。
気持ち悪い気持ち悪い…皆いなくなれいなくなれ…
吐きそうになってトイレで数分いた。
何も知らないくせに、知ったような口を開くな…ほっといてくれ。
一番いなくなれって思っているのは自分だって分かってる。
誰にも必要とされてない、生きている意味なんてあるのだろうか。
涙が頬を濡らす。
「死んでしまいたい…」
「死ぬほど苦しいの?」
後ろから声が聞こえて驚いて後ろを振り向く。
今まで気付かなかった、いつからいたんだ?
そこにいたのは同じ歳の少年だった。
影が薄そうだし正直同じクラスかどうかも覚えていない。
でも、この瞬間から脳内に刻み込まれて忘れる事はなくなったのが何となく分かる。
印象的じゃないのにと不思議な気分になった。
吐く時個室のドアを閉めるのを忘れたのが失敗だった。
「君、白川凪沙くんだよね」
「っ…」
まただ、また気持ち悪くなる。
この少年も凪沙の前では鋭い牙で襲いかかる怪物になる。
少年が近付くから後退ろうとするが、個室にいたからすぐに便器に引っ掛かりこれ以上後ろの逃げられない。
青い顔をしてビクビク震えていた。
少年は凪沙が怯えてるのに気付いて一瞬足を止めてためらったが意を決して一歩踏み出した。
少年が凪沙の肩を掴んだから肩が震えた。
「ほら、ぺって気持ち悪いもの出したら楽になるよ」
「うっ…」
くるっと後ろを振り向かされて少年が背中を擦った。
背中がじわじわと暖かくなる、初めて人の体温を感じた。
でも人前で吐くのは恥ずかしくてチラッと少年を見た。
少年は少し擦り「じゃあ僕、外で誰も来ないように見張ってるからね!」と言い残し
個室から出てった。
下心が全く見えない好意は初めてだった。
本当にずっと見張っていたのかトイレに入ってくる子は一人もいなかった。
頭が冷えてだいぶ楽になり、トイレから出ると少年はニコッと笑って立っていた。
それが、凪沙と和音の出会いだった。
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