36 / 37

第36話

※白川凪沙視点 廊下を歩くと肩を掴まれ呼び止められた。 確認するまでもなく歩みを止めずにいたら前に回り込められて仕方なく足を止めた。 「お前なぁ、ちょっとは足を止めろよな」 「うるさいジジイ」 「ジジイって……まだ28歳だ!」 もうすぐ三十路のくせに…と再び歩こうとしたらまた回り込み、イラッとした。 話があるなら一行ですぐに終わらせろ、お前と話してる時間がもったいないと心の中で思う。 …そう言う時間ももったいないから… 似た顔をしている、自分を見てるようで気持ちが悪い。 兄貴は俺と似てるのが嬉しいみたいで周りに言われると喜んでいた。 ももちゃん以外にベタベタ触られるなんて考えただけでも反吐が出る。 「彼、随分昔と雰囲気違うね…昔は明るい子だったのに」 「一度しか会ってない薄い関係のくせにももちゃんを語るな」 「お前、まさか…またやったんじゃないだろうな…桃の木の事…」 ガンッと病院のコンクリートの壁を殴った、コンクリートは響き少しへっこんだ。 手が赤くなり少量の血が流れる。 麻痺して手の感覚を失う。 兄貴は慌ててポケットからハンカチを取り出すが俺はそのまま歩き出す。 思い出したくない事を思い出してしまった。 だから全てを知ってるコイツは気に入らないんだ。 「もう、その事は二度と口にするな」 そう冷たく吐き捨て、今度こそ足を止めずに病院を後にした。 兄貴はポケットにハンカチを突っ込み大きなため息を吐いた。 病院を出て早々に兄貴の事は頭から綺麗さっぱり忘れる。 あれは俺にとっての大失敗の記憶だ、もう忘れたい。 …アレさえ成功していたらきっともっと明るい未来になっていたのに、子供すぎて計画性がなかった…もうアレはいい。 …今のはもうすぐ成功する、そうなったらまた手に入れられる。 ももちゃんが退院するまでに全てを終わらせよう、全て… 「あれ?白川凪沙くんじゃん!」 ふと足を止めた、目の前にいる人物を睨む。 目の前の人物は「そんな怖い顔しないでよー」とヘラヘラと笑う、気に入らない。 この男は俺の計画に一番いらなくて邪魔な存在。 他の単純な人間とは違う、俺が何をしてもきっと思い通りに操れない…ももちゃんに近付く厄介で面倒な害虫。 ここは病院と少し離れているが、病院まで一本道だし…手に持つお見舞いの品からしてももちゃんに見舞いだろう。 絶対に行かせないけど… 「桃宮和音は面会謝絶だよ」 「噂で重症って聞いたけど、そんなにヤバイの?大丈夫?」 「元気になったら退院するから、それまで待てばいいよ」 笑うのも嫌だけど、早く帰れという意味を込めてクラスメイトにするような|上部《うわべ》だけの優しい笑顔を向ける。 俺はももちゃんが大丈夫なのは知っているから余裕な顔をする。 もう学校全体にももちゃんの入院は知れ渡っただろう、しかしまだ容態については明かされていない。 見るからにコイツはももちゃんと知り合い程度には親しいのだろう。 でも、心配を口にしながら笑顔なのがとても変だった。 変な俺が言うのだから相当可笑しい感じがした。 「君は彼が殴られてるのを見てただけなんだ」 「……どういう意味?」 「いや、君…彼にとても執着してるように見えたからそうでもないのかな?と思っただけだよ」 電車の事を言っているのだろう。 勝手に見てたくせに、変態が… これは安っぽい挑発だ、それは分かっている。 でも、自分がももちゃんに抱く想いを否定されたようで腹が立った。 …やっぱり消した方がいいかもしれない、コイツの家がでかすぎてちょっと時間が掛かるかもしれないが…少しずつ、じわじわと… 生徒会長は近付き俺にフルーツの入った見舞いの品を渡す。 「これ、彼に届けといて…君の事だからどうせ捨てるんだろうけど」 「………」 「一応言っておくけど、彼を支配しようとしてもダメだよ…彼は自分を追い込むタイプだから、いつか必ず君が手を伸ばしても絶対に手が届かない場所に逃げてしまうよ」 目を見開き生徒会長を見る。 これは助言?…いや違う、これは警告だ。 彼は俺を思って発言したんじゃない…現実を突きつけただけだ。 自分ならそうさせないとでも言いたいのだろうか。 生徒会長がいなくなり、見舞いの品を地面に叩きつける。 自分よりももちゃんを理解してるって?腹が立つ。 お前の倍以上見てきたんだ、ももちゃんの性格ぐらい分かっている。 でもももちゃんがアイツに少しだけなついているのも知っている。 …友達がいなくなった今、ももちゃんが頼りにするのはどちらか…ほんの少しだけ焦っていた。 「やっぱアイツ、邪魔だな」

ともだちにシェアしよう!