1 / 37

第1話

「ももちゃん、かくれんぼしよ?」 その言葉はもう何回聞いただろう。 かくれんぼが大好きな友達は毎日かくれんぼをしたがる。 理由を聞くと「ももちゃんを見つけるのが楽しいの」と言う、変わった友人だ。 しかし、二人だけでかくれんぼのなにが楽しいのか理解出来ない。 そんなのすぐに見つかるに決まっている。 友達はクラスで人気者で男女関係なく友人が多い。 当然といえば当然だ、だって友人はさらさらの痛んでいないクリーム色の髪に人形のように整っている顔だ…確かロシア人と日本人のハーフだと言う。 勉強もスポーツも出来る、そりゃあ人気者にもなれる。 それに比べて自分は勉強もスポーツも出来ないし、明るくもなく交友関係は物凄く狭い…おまけに平均的な顔。 なんでそんな自分と友達になったのかは忘れてしまったが、きっと理由なんてないだろう。 そして友達が沢山いるのに何故か冴えない自分と二人だけで遊びたがる…決まってかくれんぼ。 一度他の遊びを提案したら即却下された。 そして今日もまた遊びに誘われた。 ランドセルを滑り台の上に置き、公園でかくれんぼをした。 鬼を決めるじゃんけんで友達が鬼になった。 じゃんけんが弱いのかいつも自分は隠れる側だ。 この公園は一通り隠れたからどれもすぐに見つかる気がする。 友達は見つけるのが上手くてすぐに見つかるから毎回悔しい思いをしていて今日は負かしたいと思っていた。 公園から出なければ何処に隠れててもいいルールだからもう少し奥の方に隠れてアスレチックの中に身を潜める。 外から丸見えだが、しゃがめばどうにか分からないだろう。 少し友達が歩いてくるのが見えたら別の場所に隠れよう…我ながら名案だと思った。 ジッと身を潜めていたら、ポンポンと後ろから肩を叩かれた。 明らかに早すぎる、10秒数えてから来たのかと疑いの眼差しで振り返る。 するとそこにはサングラスにマスクの怪しい男が立っていた。 男は息遣いが荒く、逃がさないように腕を掴んできた。 気持ち悪くて怖くて、暴れるがアスレチックの中は狭くてなかなか身動きが取れなかった。 「や、やだっ!!」 「はぁはぁ、少し我慢してね…すぐ終わるからね」 短パンの中に手を入れていやらしく太ももを撫でて男は耳元で囁いてきた。 気持ち悪い感覚がまとわりついて鳥肌が立つ。 声を出そうとしたが大きな手で口を塞がれた。 怖くて怖くてぽろぽろと涙を流した。 男の手が短パンのベルトを掴んだところで、カシャとなにか音がした。 驚いて男と共に男の後ろを見た。 「…警察に連絡しないとね」 そこには友達がスマホを持って立っていた。 助かったとホッとしたのも一瞬で男は友達にターゲットを移した。 自分よりも変質者に狙われやすいだろう友達を助けようと思った。 しかし友達と自分の間に男がいて、アスレチックもあり動けなかった。 友達は男をジッと見て逃げる様子はない。 もしかして、自分を置いて逃げられないのでは…と思った。 「早く逃げてっ!」 精一杯大きな声を出して、逃げるように言った。 友達はまだ逃げない、何故逃げないのか不思議だった……怖くて逃げられないのか? …そして逃げたのは、友達ではなく男の方だった。 自分からは見えなかったが正気が抜けたような顔面蒼白の顔をしていた。 友達は何も言ってないし何もしていない筈なのに何故逃げたか分からなかった。 そして友達は何でもない顔をして微笑んだ。 「ももちゃんみっけ」 あれから不審者の話題を一度も出していない。 あの頃、帰り道で一度だけ警察に言うのかどうするのか友達に聞こうと思った。 その時の感情が抜け落ちたような無表情な顔が恐ろしくて話題に出すのをやめた。 あの不審者がどうなったかは、分からない。 それから友達が「ももちゃん、かくれんぼしよ?」と誘われたが不審者がトラウマになり断った。 初めて、かくれんぼを断った。 友達はもう一度同じ事を繰り返した。 さすがにイライラして友達がいないのに「別の子の家でゲームするからもうかくれんぼなんてしないよ!」と言った。 友達は目を見開き固まっていた。 自分と違い友達が沢山いるんだから、その子達とかくれんぼした方が楽しいに決まっている。 そして、友達が多い子の恨みを買う意味を翌日嫌でも知る事になった。 本当の意味で一人ぼっちになった。 今まではプリントを配る時とか教科書を忘れた時とか一言二言話すのに無視をされた。 今まで友達がいなくても平気だと思ってたが、とても苦しかった。 友達は相変わらずかくれんぼに誘う、それが不気味でしょうがなかった。 友達がなにかしたのは明らかでそんな子と遊ぶほど馬鹿ではない。 断ると友達は「…ももちゃんが知らない男に汚された…僕のももちゃんが」とよく分からない事を言っている。 それから友達はかくれんぼの誘いをやめて「誰のお家に遊びに行ったの?」としつこく聞いてきた。 誰の家にも行ってないし、嘘だって言うとなんか自分が可哀想な奴に思えてずっと黙っていた。 それから友達がどうなったか分からない、その後すぐに転校したから… 友達と離れる事が出来て、心の底からホッとしていた。 そして高校生になると同時に両親は海外転勤に行き、英語が出来ないから一人暮らしを始めた。 平和だった、相変わらず人見知りで友達はいなかったがいじめられるよりはマシだった。 まさか、アイツがいるなんて思わず高校生活を楽しみにしていた。

ともだちにシェアしよう!