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第5話
風太はなにか誤解したままだったが、深く聞かれたくないから合わせる事にした。
それにしても、違和感が凄かった。
周りはお似合いカップルだとか、「ももちゃん」と呼んでるとか、噂だけ聞くとラブラブカップルのように思える。
…でもさっきの彼は、隣で腕を絡めて話しかける彼女をまるでいないもののように扱っていた気がする。
眉一つ動かさない、視線も向けない彼は昔からそんな人だったっけ…思い出せない、俺と話していた彼しか知らないから…
確か彼はいつもニコニコしていて…
思い出そうとしていたら風太に肩を叩かれた。
「そろそろ行こ、遅刻しちゃうよ」
「…そうだね」
もう関係ないからどうでもいいと思い、風太と共に早足で学園に向かった。
ーーー
下駄箱を開けると、そこには白い封筒が入っていた。
昨日俺が帰りに下駄箱の上に置いたはずなのにと下駄箱の上に手を伸ばす。
…やはりない。
この手紙は自分宛てだったのか、二度も間違える事はまずないと思うからきっとそうだ。
手紙を開けようとすると、風太がやって来てついズボンのポケットに手紙をねじ込む。
何だか手紙を見られるのが気まずく感じたからだ…内容がなんであれ…
「ねぇ和音、部活何するか決まった?」
「え…ううん、何もしない」
「えーもったいない!僕はサッカー部にするけど和音もやろうよ!」
「…体力ないから無理だよ、ごめん」
そんな雑談をしながら教室に向かった。
昼休みにでも見ようと思った。
教室に入ると昨日いなかった見知らぬ生徒が入ってきて教室は少し騒ついたが風太が俺を自己紹介した。
挨拶を交わすが、積極的な生徒は風太ぐらいしかいなくて友達になろうと来る生徒はいなかった。
大人数が苦手な俺は密かにホッとした。
…ホッとしたのもつかの間で、すぐに背筋が凍りついた。
同じクラスに彼はいた。
彼は窓際の一番後ろで大人数に囲まれて話している。
笑ってるのに、全然楽しそうじゃないと感じるのは何故だろうか。
俺の視線に気付いた風太は視線の先を追う。
「気になるの?」
「っ!ならない!」
「そ、そっか…一応名前知っとく?」
俺は首をブンブン横に振り拒否する。
名前ならとっくに知ってる。
白川 凪沙 、俺の幼馴染みであり俺が怖いと感じた男だった。
俺は凪沙と離れた席みたいでホッとして椅子に座る。
何だろう、まただ嫌に視線を感じる…何だろうこの気持ち。
その視線の正体はすぐに気付いた。
チラッと凪沙の方を見ると、目が合い…すぐに目を逸らす。
なんで…なんでずっとこっち見るんだろう、あれから容姿も変わってるのに俺の事がバレてるのか?さっき風太が自己紹介したからか?
分からない、分からないけど…怖い怖い。
「どうしたの?なんか震えてるよ」
風太が心配して俺に触れようとしたら、ガタッと大きな音がした。
皆そこに集中すると凪沙が立ち上がっていた。
俺も風太も目を丸くして凪沙を見ていた。
凪沙はクラスメイト達に「トイレいってくる」と言っていて、こちらの方に近付いてくるからとっさに下を向きやり過ごす。
ドア側の一番後ろはいろいろと便利だが出入りが激しいから嫌な事もある…今とか。
そのまま凪沙が教室を出ていった音を聞き緊張が解けて机に伏す。
ずっとこの緊張感を感じながら過ごすと思うと憂鬱だ。
そしてさっきからずっと黙ってる風太が気になり、風太がいる方を見て目を見開いた。
風太は青い顔をして震えていた。
「ど、したの?」
「僕、なんか白川くんにしたかな?…物凄い顔で睨まれた」
俺は下を向いていたから気付かなかった。
…きっと、風太を睨んでいたのではないと思う。
まだ俺を恨んでいるのだろう…凪沙は…
そう思うとゾクッと震えた。
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