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第4話
そう答えるしか出来なかった。
入学式は行ってないし、ほとんど寝ていたなんて言えるわけもない。
入居日から口下手だったのを知っている城戸さんは俺の言葉にもニコニコして頷いてくれる。
城戸さんに彼の話は一度もした事がない、変な事に巻き込んで心配掛けたくない。
それに友達同士の拗れなんて聞かされても困るだろうし…
城戸さんは俺にとって兄のような存在だと思っていた、恥ずかしくて本人目の前にして言えないが…
「そっか、友達は出来た?入学したばかりだからまだ早いかな?」
友達…そこで思い浮かぶのは岸くんだった。
岸くんは友達だと言ってくれたから友達だと思っていいんだよね?
あんな態度を取ってしまって、気分悪かっただろう…お礼と一緒に謝ろう…きっとこれが俺が変われるチャンスだと思ってるから…
いつまでも怯えて下を向いてたら高校生活をダメにしてしまう。
変わりたい、強くそう思っていた。
カレーを一口食べて甘いココアを飲む。
「…友達?出来た」
俺の疑問部分には触れず、城戸さんは自分の事のようにとても嬉しそうに微笑んだ。
それを見て俺も嬉しかった。
城戸さんが「今度は友達も連れておいで、飲み物奢るから」と言われ頷いた。
岸くんはこういう喫茶店好きかな?と考えるだけで楽しかった。
彼以外に友達が出来て浮かれていたんだ。
…すっかり彼が同じ学園にいるかもしれない事を忘れるほどに…
ーーー
カレーを食べ終わり、喫茶店を出て二階の角にある自分の部屋に向かった。
気のせいか、帰る時よりも視線がキツくなってるような気がして逃げるように部屋に入った。
鞄を玄関に置き、歩きながら制服を脱ぐ。
部屋に入った筈なのに、視線が絡みつき離れない。
服を全て脱ぎ、クローゼットから着替えを取り出し風呂場に向かう。
制服はシワになっちゃうが、風呂から上がってからハンガーに掛けようと思った。
蛇口を捻ると勢いよく水が出てきて変な声を上げる。
お湯になるのに少し時間が掛かるから、先に泡を付けたスポンジで体を洗う。
今日は疲れた…こんな事でこの先大丈夫か不安になる。
まだ、視線を感じる…何だろうこの視線…ねっとり絡みつくような…嫌な視線だ。
視線を振り払うようにお湯になったシャワーで泡を洗い流す。
怖くて怖くて…仕方なかった。
その視線は布団に入っても、消える事はなかった。
ーーー
翌朝、あまり寝れず眠たい目を擦りながら学園に向かっていた。
挨拶したり楽しく話す生徒達に紛れてボーッと歩く。
するとバシッと思いっきり背中を叩かれた。
「おっはよ!和音!」
「…お、おはよう、昨日はごめんね…岸くん」
「気にしない気にしない!それに風太でいいよ!なんか他人行儀みたいだし」
ジンジンする背中を撫りながら後ろを振り返ると白い歯を見せて笑う眩しい岸く…風太がいた。
友達でも苗字呼びの人はいるから馴れ馴れしいのが嫌かと思って苗字呼びをしたが、風太はどうやら苗字呼びが気に入らないようだった。
俺を和音と呼ぶのは家族だけだった、何だか不思議な気分だ。
明らかに俺とは真逆の性格の風太が羨ましかった。
陽向と日陰というほどの違いだ。
誰かを下の名前で呼ぶのは彼以来だから緊張するが、風太が期待の眼差しを向けるから頬を赤くしつつ口を開いた。
「えっと、じゃあ…ふう「キャー!!!」
名前を呼ぼうとしたら女子の黄色い声に遮られた。
声がしたであろう風太の後ろ側を二人で見た。
心臓が止まるほど驚いた。
肩に掛けてある鞄がずり落ちた。
…あぁ、やっぱりそうだ…なんでこんなところに…
女子だけじゃなく、男子もその人物に憧れの眼差しを向けていた。
クリーム色の明るい茶髪に、美しく整った顔…瞳はダークブラウンで何も映していないような仄暗さがミステリアスだと女子が騒いでいた。
間違いない、彼だ…忘れるわけがない。
可愛さは見る影もないが中性的な色気がある。
とっさに風太の後ろに隠れると風太は不思議そうに後ろを振り返る。
「どうしたの?なんかあった?」
「な、何でもない…」
そう言いつつ隠れるのをやめない。
これじゃあ昔のかくれんぼみたいじゃないかと苦い顔をする。
風太は俺より小さいから立つ風太に対してしゃがんで小さくならないと隠れられない。
ビクビクしていたが、彼は俺を一度も見る事なく素通りした。
そういえば彼に気を取られていて、隣にいる子に気付かなかった。
ふわふわカールのダークブラウンの髪の男なら誰もが振り返るであろう美少女が彼の腕に絡みついて歩いていた。
…もしかして、あれが彼女か?
二人が見えなくなり、風太の影から出てくる。
何故か風太は暖かい瞳で見つめていた。
「分かる、分かるよ…モテ男なんて皆滅べば良いのにって思うよね」
「えっ…あ、いや…」
「良いって何も言わなくても…僕も同じだから恥ずかしくないよ、だいたい顔が良くて学年首席とか神様は意地悪すぎると思うんだよね!」
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